タワマン節税はもう使えない? ― 最高裁判決後に残された不動産活用の相続対策を徹底解説

はじめに

2022年4月、最高裁判所はある相続税事案において、タワーマンションを活用した節税スキームを否認する判決を下しました。相続税評価額(約3億3,000万円)と鑑定評価額(約12億7,000万円)の著しい乖離を利用した相続税の圧縮について、国税庁が「総則6項」(財産評価基本通達の定めにより評価することが著しく不適当な場合に、国税庁長官の指示で評価する規定)を適用し、最高裁がこれを支持したのです。

この判決は、不動産業界と税務の世界に大きな衝撃を与えました。「タワマンを買えば相続税が安くなる」という、長年にわたって広く行われてきた節税スキームに、最高裁が明確にブレーキをかけたからです。

では、タワマン節税が封じられた今、相続対策としての不動産活用はもはや意味がないのでしょうか。答えは「いいえ」です。不動産を活用した相続対策そのものが否定されたわけではありません。否定されたのは、「過度な乖離を意図的に作り出す行為」です。

本記事では、最高裁判決の影響を正確に整理したうえで、現在も有効な不動産活用による相続対策を、不動産鑑定士の視点から解説します。

第1章:最高裁判決が示したもの

1-1. 事案の概要

この事案では、90歳代の被相続人が相続開始の約3年前に、銀行借入れ(約10億円)を利用して2棟のマンションを取得しました。相続税評価額は約3億3,000万円であったのに対し、鑑定評価による時価は約12億7,000万円。評価額の乖離率は約74%に達していました。

国税庁は総則6項を適用して鑑定評価額で課税し、最高裁はこれを適法と判断しました。

1-2. 判決の射程 ― 何が否定され、何が残ったのか

この判決のポイントは、以下の3点に集約されます。

否定されたこと:

  • 相続税の圧縮を主たる目的として、意図的に巨額の借入れと不動産取得を行い、評価額と時価の著しい乖離を作り出す行為
  • 他の納税者との間の租税負担の公平を著しく害する結果を招く評価

否定されていないこと:

  • 路線価方式による相続税評価そのものは否定されていない
  • 不動産を活用した相続対策一般が否定されたわけではない
  • 合理的な範囲での評価額と時価の乖離は従来通り認容される

1-3. 判決後の制度改正 ― マンション評価の新ルール

この判決を受けて、国税庁はマンションの相続税評価方法の見直しを行い、2024年1月以降の相続からマンションの評価額に乖離率を補正する仕組み(いわゆる「マンション評価の新ルール」)が導入されました。

具体的には、マンションの市場価格と評価額の乖離率が一定以上(評価額が市場価格の60%未満)の場合に、評価額を引き上げる補正が行われます。この結果、タワーマンションの高層階を中心に、相続税評価額は従来よりも引き上げられることになりました。

第2章:現在も有効な不動産活用による相続対策

2-1. 賃貸不動産の活用(適正な範囲での評価圧縮)

相続税評価において、賃貸に供されている不動産は、自用の不動産よりも低く評価されます。これは「借り手の権利」が存在することにより、所有者の利用が制約されるためであり、合理的な評価減です。

貸家建付地(賃貸用建物の敷地となっている土地)の評価減:
自用地評価額 ×(1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

ここで、借地権割合(土地を借りる権利の価値が土地全体に占める割合。地域ごとに国税庁が設定)と借家権割合(建物を借りる権利の価値割合。全国一律30%)は、それぞれ借り手の権利の強さを数値化したものです。例えば、借地権割合60%・借家権割合30%・満室(賃貸割合100%)の場合、自用地評価額から18%の評価減が適用されます。

貸家の評価減:
固定資産税評価額 ×(1 − 借家権割合 × 賃貸割合)= 固定資産税評価額の70%

これらの評価減は制度上認められたものであり、判決後も変更はありません。ただし、形式的な賃貸(相続直前に身内に低廉で賃貸する等)は否認リスクがあります。

2-2. 小規模宅地等の特例の活用

相続税の「小規模宅地等の特例」は、被相続人の居住用・事業用・貸付事業用の宅地について、最大80%の評価減を認める制度です。

用途限度面積減額割合
特定居住用宅地等
(被相続人が住んでいた土地)
330㎡80%
特定事業用宅地等
(被相続人が事業に使っていた土地)
400㎡80%
貸付事業用宅地等
(被相続人が賃貸していた土地)
200㎡50%

この特例は適用要件を満たせば確実に使えるものであり、不動産を活用した相続対策の柱の一つです。ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業を開始した宅地は原則として対象外とする制限があり、注意が必要です。

2-3. 不動産の組み替え(ポートフォリオの最適化)

相続対策としての不動産活用において、最高裁判決後に重要性が増しているのが不動産の「組み替え」です。

これは、収益性が低く管理が難しい不動産(遊休地、老朽アパート等)を売却し、その資金で収益性が高く、相続税評価額と時価の乖離が適正な範囲にある不動産に買い替えるという戦略です。

組み替えのメリットは以下の通りです。

  • 収益力の向上(キャッシュフローの改善)
  • 管理の効率化(老朽物件の維持費・空室リスクの解消)
  • 相続税評価額の適正化(過度な乖離を避けつつ、合理的な評価減を享受)
  • 遺産分割のしやすさ(物件数を分割しやすい構成に調整)

2-4. 生前贈与と不動産の併用

不動産の鑑定評価額(時価)と相続税評価額の適正な範囲での乖離を活用して、生前贈与を行う方法も引き続き有効です。

例えば、時価5,000万円・相続税評価額3,500万円の不動産を子に贈与する場合、贈与税は3,500万円を基準に計算されます。この乖離は「過度」とは言えない範囲であり、総則6項の適用リスクは低いと考えられます。

ただし、贈与のタイミングや金額、他の資産との関係など、総合的な判断が必要です。具体的な税額計算や申告手続きについては、必ず税理士にご確認ください。

第3章:鑑定評価が相続対策で果たす新たな役割

3-1. 「攻め」から「守り」へ ― 鑑定評価の位置づけの変化

最高裁判決以前の鑑定評価は、相続税評価額との乖離を利用した「攻めの節税」の道具として使われることがありました。判決後は、「自分の相続対策が総則6項の適用リスクにさらされていないか」を検証する「守りの道具」としての重要性が高まっています。

具体的には、以下の場面で鑑定評価が活用されます。

  • 取得予定の不動産の時価を事前に把握し、相続税評価額との乖離率が過度でないことを確認
  • 既に保有している不動産の時価を定期的にモニタリングし、乖離が拡大していないかを検証
  • 組み替え先の不動産候補について、時価と評価額の関係を事前に分析

3-2. 税理士との連携による総合的なプランニング

相続対策は不動産鑑定士単独で完結するものではありません。税理士・弁護士・不動産鑑定士の三者連携によるチームアプローチが、最高裁判決後の相続対策では不可欠です。

  • 税理士:相続税シミュレーション、贈与税・譲渡所得税の最適化
  • 弁護士:遺言書の作成、遺留分(法定相続人に保障された最低限の取り分)対策、家族信託(信頼できる家族に財産の管理・処分を託す仕組み)の設計
  • 不動産鑑定士:不動産の時価把握、評価額との乖離分析、組み替え候補の評価

3-3. 「合理的な範囲」のラインはどこか

最高裁判決は「著しく不適当」な乖離を否認しましたが、具体的に何%の乖離なら安全かという明確な基準は示していません。

実務的な感覚として、マンション評価の新ルール(市場価格の60%を下限とする補正)が一つの参考基準となります。評価額が時価の60%以上であれば、少なくとも「著しい乖離」とは言いにくいでしょう。

しかし、乖離率だけでなく、取得の経緯(相続直前か否か)、借入れの目的(事業性があるか)、保有の実態(実際に賃貸運営しているか)といった総合的な事情が判断材料となります。この点、税理士と不動産鑑定士が連携して慎重に検証することが重要です。

3-4. 2026年度税制改正の動向 ― 貸付用不動産の評価見直し

最高裁判決、マンション評価新ルールに続き、さらなる制度改正の動きがあります。2026年度(令和8年度)税制改正大綱では、相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産について、従来の路線価方式ではなく時価(取得価額を基に地価変動等を考慮した価額の80%)で評価する方針が示されました(令和9年1月1日以後適用予定)。

これは、相続直前の不動産取得による評価圧縮をさらに制限するものであり、「5年以内の取得」という明確な基準が設けられた点が注目されます。5年を経過すれば従来の評価方法に戻りますが、不動産小口化商品については5年経過後も時価評価が継続されるなど、より厳しい扱いとなっています。

相続対策として不動産の取得を検討される場合は、この改正動向も踏まえた長期的な視点が不可欠です。

まとめ

最高裁判決は「タワマン節税」に代表される過度な乖離利用を封じましたが、不動産を活用した相続対策そのものを否定したわけではありません。

本記事のポイントを整理します。

  • 最高裁が否定したのは「過度な乖離を意図的に作り出す行為」であり、合理的な範囲の評価減は引き続き有効
  • 賃貸不動産の評価減、小規模宅地等の特例、不動産の組み替えは現在も有効な対策
  • 判決後は、鑑定評価の役割が「攻めの節税ツール」から「守りのリスク検証ツール」へとシフト
  • 2026年度税制改正では5年以内取得の貸付用不動産を時価評価とする方針が示され、制度面の引き締めは続く
  • 税理士・弁護士・鑑定士の三者連携による総合的プランニングが不可欠

相続対策として不動産の取得や組み替えを検討されている方、あるいは既に保有している不動産の評価リスクが気になる方は、事前に時価の把握をされることを強くお勧めします。当事務所では、相続対策に特化した不動産評価のご相談を承っており、税理士の先生方との連携体制も整えております。対策の第一歩として、ぜひご活用ください。