不動産鑑定評価が必要な15の場面とは?相続・M&A・離婚…ケース別に解説

はじめに

「不動産鑑定って、どんなときに必要になるものなんですか?」

これは、私たち不動産鑑定士が最も多く受ける質問の一つです。不動産鑑定評価という言葉は知っていても、「自分に関係があるのかどうかがわからない」という方が圧倒的多数ではないでしょうか。

結論から言えば、不動産鑑定評価は「不動産の価格を、自分以外の誰かに納得させる必要があるとき」に必要になります。税務署に、裁判所に、取引の相手方に、会社の株主に――「この価格が適正である」と客観的に証明しなければならない場面で、鑑定評価書は最も有力な客観的根拠となります。

本記事では、不動産鑑定評価が必要となる代表的な15のシーンを、「個人」「法人」「紛争・訴訟」「公共・制度」の4領域に分けて一覧で解説します。ご自身の状況に当てはまるものがないか、ぜひ確認してみてください。


第1章:個人のライフイベントで必要になるシーン

シーン1:相続税申告で「路線価評価」に納得がいかないとき

相続税の計算では、不動産は原則として路線価(相続税路線価)で評価されます。しかし、路線価は地価公示価格の約80%という画一的な水準で設定されるため、実際の時価が路線価評価額を大幅に下回る不動産では、相続税を過大に支払うことになります。

不整形地、崖地、私道負担のある土地、借地権付き建物、市場性の低い郊外の広大地――こうした不動産では、鑑定評価によって路線価評価額よりも低い時価を立証し、相続税を適正な額に抑えることが可能です。

シーン2:親族間・関連者間で不動産を売買するとき

親子間、兄弟間、あるいは自分が経営する会社との間で不動産を売買する場合、税務署は「適正な時価」での取引かどうかを厳しくチェックします。

時価よりも著しく低い価格で売買すれば「みなし贈与」(実際には贈与の意思がなくても、時価との差額が贈与とみなされ贈与税が課される制度)として贈与税が課される可能性があり、逆に法人との取引で時価より高い価格で買い取れば「役員賞与」と認定されるリスクがあります。鑑定評価書は、取引価格の妥当性を税務署に対して証明する最強のエビデンスです。

シーン3:離婚に伴う財産分与で不動産を評価するとき

離婚時の財産分与では、婚姻期間中に形成された共有財産を公平に分けなければなりません。最大の資産が自宅であるケースは非常に多く、「この不動産はいくらなのか」が分与額を大きく左右します。

当事者双方が納得できる価格を導き出すためには、利害関係のない第三者である不動産鑑定士の評価が不可欠です。調停や裁判に発展した場合には、鑑定評価書がそのまま証拠として使われます。

シーン4:遺産分割で不動産の取り分を決めるとき

「実家の土地は長男が相続し、他の兄弟には預貯金を分ける」――こうした遺産分割において、不動産の評価額は分割案の公平性を左右する最も重要な要素です。

相続人間で評価額の認識が合わなければ、協議は長期化し、家庭裁判所での調停・審判に移行することも珍しくありません。鑑定評価は、相続人全員が納得できる「共通の物差し」を提供します。

シーン5:固定資産税の評価額に不服があるとき

固定資産税評価額が実態より高いと感じた場合、固定資産評価審査委員会に審査申出を行うことができます。この際、不動産鑑定評価書は、過大評価を立証するための中核的な証拠となります。


第2章:企業活動で必要になるシーン

シーン6:企業が保有不動産の減損テストを行うとき

企業会計基準における「減損会計」(保有資産の収益力が低下し、投資額の回収が見込めなくなった場合に帳簿価額を引き下げる会計処理)では、保有不動産の簿価が回収可能価額を上回っている場合に、減損損失を計上する必要があります。この回収可能価額の算定根拠として、不動産鑑定評価が求められます。

特に、上場企業では監査法人から鑑定評価書の取得を求められるのが一般的であり、「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」においても、鑑定評価額による時価開示が推奨されています。

シーン7:M&A(企業買収)で対象企業の不動産を評価するとき

M&Aのデューデリジェンス(買収調査)において、対象企業が保有する不動産の時価を正確に把握することは、買収価格の算定に直結します。簿価と時価に大きな乖離がある場合、それは「含み益」にも「含み損」にもなり得ます。

シーン8:CRE(企業不動産)戦略で資産の棚卸しをするとき

企業が保有する不動産ポートフォリオの最適化を図るCRE戦略において、保有・売却・建替え・賃貸転用の意思決定には、個々の不動産の時価把握が前提となります。鑑定評価は、経営判断の基礎データです。

シーン9:不動産の証券化・ファンド組成を行うとき

J-REIT(不動産投資信託)や私募ファンドで不動産を運用する場合、投資法人が取得・保有・売却する不動産には鑑定評価の取得が法律上義務づけられています(投資信託及び投資法人に関する法律施行規則)。鑑定評価額は、投資口価格やNAV(純資産価値)の算定基礎となります。

シーン10:関連会社間・グループ内で不動産を移転するとき

親会社から子会社へ、あるいはグループ会社間で不動産を移転する場合、移転価格が「時価」であることを証明しなければ、税務上の否認リスクが生じます。シーン2の親族間売買と同様のロジックであり、鑑定評価書が税務リスクの盾となります。


第3章:紛争・訴訟で必要になるシーン

シーン11:賃料の増額・減額を請求するとき

借地借家法に基づく賃料改定交渉において、「適正な賃料はいくらか」を客観的に示すには、不動産鑑定士による賃料評価が不可欠です。調停や訴訟に進んだ場合には、裁判所が鑑定評価を命じることもあります。

シーン12:立退料の算定で揉めているとき

建物の賃貸人が賃借人に対して立ち退きを求める場合、借地借家法上の「正当事由」の補完として立退料の提供が必要です。立退料の額には法律上の明確な基準がなく、鑑定士が個別事情を分析して算定する専門的な領域です。

シーン13:共有不動産の分割を求めるとき

不動産の共有者間で意見が合わず、共有物分割請求訴訟に至った場合、不動産の時価が分割案(現物分割・代償分割・換価分割)の判断材料となります。裁判所は、鑑定評価によって公正な分割の基礎となる価格を確定させます。

シーン14:損害賠償請求で不動産の価値減少を立証するとき

隣地の建設工事による日照阻害、土壌汚染の発覚、建物の瑕疵など、不動産の価値が毀損された場合の損害賠償請求においては、「価値がいくら下がったのか」を数値で立証する必要があります。鑑定評価は、この損害額の定量化において決定的な役割を果たします。


第4章:公共・制度上の場面で必要になるシーン

シーン15:公共用地の取得(収用)に伴う補償額の算定

道路拡幅・再開発・区画整理などの公共事業で不動産を収用される場合、土地所有者に支払われる補償金の算定根拠として、不動産鑑定評価が用いられます。

提示された補償額に納得がいかない場合、地権者側が独自に鑑定評価を取得して交渉に臨むことも実務上よく行われます。


まとめ:あなたのケースはどれに当てはまりますか?

本記事で紹介した15のシーンを改めて一覧にします。

領域シーン
個人①相続税申告 ②親族間売買 ③離婚の財産分与 ④遺産分割 ⑤固定資産税の不服
法人⑥減損会計 ⑦M&A ⑧CRE戦略 ⑨証券化・ファンド ⑩グループ間移転
紛争⑪賃料改定 ⑫立退料 ⑬共有物分割 ⑭損害賠償
公共⑮公共用地の収用補償

「自分のケースが上のどれに当たるのかわからない」「複数のシーンにまたがっている」という方もいらっしゃるかもしれません。

不動産鑑定の要否は、ケースの詳細によって判断が分かれることも多いため、まずは専門家に状況を伝えていただくのが最も確実です。株式会社KRE Appraisalでは、「鑑定が必要かどうかの判断」そのものについても、初回無料でご相談いただけます。「自分の場合はどうなんだろう?」という段階でも、どうぞお気兼ねなくご連絡ください。