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賃貸等不動産の時価開示は毎期の鑑定が必要?重要性判断とみなし時価の使い分けを不動産鑑定士が解説

はじめに
賃貸等不動産の時価開示のために、毎期すべての物件で鑑定評価を取り直さなければならないのか。決算のたびに鑑定費用と社内の作業がかさみ、負担を減らせないかと悩む経理財務のご担当者は少なくありません。逆に、路線価や固定資産税評価額で済ませてよいのか、監査で指摘されないかと不安を抱える方もいるでしょう。
先に結論をお伝えします。賃貸等不動産の時価開示は、すべての物件で毎期の鑑定評価を求めるものではありません。 企業会計基準適用指針第23号は、重要な物件には不動産鑑定評価基準による方法(原則的な時価算定)を求める一方、変動が小さい物件には指標による調整を、重要性が乏しい物件には公示価格や路線価などに基づく価額を時価とみなすことを認めています。ポイントは、どの物件にどの方法を当てるかの線引きです。
この記事では、企業会計基準第20号が定める注記の範囲と内容を整理したうえで、重要性の判断と時価の算定方法の使い分け、毎期の負担を抑えながら監査に耐える運用を、私たち鑑定士の視点から解説します。最終的な会計処理と開示の判断は、監査法人・公認会計士にご確認ください。
第1章:賃貸等不動産の時価開示とは何か
1-1. 対象となる「賃貸等不動産」の範囲
企業会計基準第20号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」(2008年公表、最終改正2024年9月13日)は、賃貸等不動産を「棚卸資産に分類されている不動産以外のものであって、賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として」保有する不動産と定義しています(同基準第4項(2))。物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使う不動産は含まれません。
同基準第5項・第6項は、次のものを賃貸等不動産に含めるとしています。
- 貸借対照表で投資不動産として区分されている不動産
- 将来の使用が見込まれていない遊休不動産
- 上記以外で賃貸されている不動産
- 将来賃貸する予定で開発中・再開発中の不動産
- 賃貸目的なのに一時的に借手がいない不動産
見落としやすいのが、自社利用と賃貸が混在するビルです。本社が入るビルの一部フロアを外部に貸している場合、賃貸部分は賃貸等不動産に含めます(同基準第7項)。区分は管理会計上の区分方法などの合理的な方法で行います(適用指針第23号第7項)。また、連結財務諸表では連結の観点で判断するため、グループ会社間の賃貸は賃貸等不動産に該当しません(同第3項)。
1-2. 注記する4項目と2024年改正
賃貸等不動産を保有している場合、次の4項目を注記します(同基準第8項)。
- 賃貸等不動産の概要(主な内容・種類・場所)
- 貸借対照表計上額及び期中における主な変動
- 当期末における時価及びその算定方法
- 賃貸等不動産に関する損益
2024年の改正では、新しいリース会計基準(企業会計基準第34号)の公表にあわせて、使用権資産の形でリースの借手が保有する不動産も賃貸等不動産の定義に加わりました。たとえば借りたビルを第三者に転貸している場合です。ただし、この使用権資産については(1)(2)(4)を注記し、(3)の時価は求められていません。改正の適用時期はリース会計基準と同じで、2027年4月1日以後開始する事業年度の期首からです。新リース会計基準が不動産に与える影響は、「月額賃料500万円のオフィスが5億円の資産に?2027年適用の新リース会計基準と不動産評価を不動産鑑定士が解説」で解説しています。
なお、改正後の基準も2025年4月1日以後開始する事業年度の期首から早期適用できます。また、この注記は有価証券報告書だけの話ではありません。会社計算規則第110条は、会社法の計算書類(注記表)でも賃貸等不動産の状況と時価に関する事項の注記を求めています。連結注記表を作成している会社は個別注記表への記載を要せず、会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く)では注記自体が不要とされています。自社に注記義務があるかどうかは、まずここから確認してください。
1-3. 開示する「時価」は正常価格に対応する
同基準は時価を「公正な評価額」とし、市場価格が観察できない場合は「合理的に算定された価額」としています(同基準第4項(1))。不動産は同じものが市場で日々取引されるわけではないため、多くは後者になります。
適用指針第23号第11項は、合理的に算定された価額を「不動産鑑定評価基準」による方法又は類似の方法で算定するとしています。そのうえで同第29項は、鑑定評価で求める価格のうち時価に対応するのは正常価格(市場性を有する不動産について、合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格)としています。
収益物件については、DCF法(将来の純収益と売却価格を現在価値に割り戻す手法)を重視した算定方法も用いることができるとされています(同第31項)。還元利回りや割引率の決め方で価格がどれほど動くかは、「還元利回りの求め方で価格は4,360万円変わる?キャップレート5つの算定法と根拠の見方を不動産鑑定士が解説」をご覧ください。
1-4. 迷いやすい線引き――社宅・グループ会社への貸与・用途未定の物件
1-1で見た範囲の規定は、実際の保有物件に当てはめると答えが一つに決まらない場面があります。その典型が社宅です。
基準は、定義(第4項(2))では「賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として」という保有目的で線を引く一方、範囲(第5項)の「上記以外で賃貸されている不動産」には目的の限定がありません。結論の背景第28項は、付随的なサービスの重要性で線を引くのは実務上容易ではないとして、形式的な区分を重視したとしています。自社使用の不動産を除く理由については、結論の背景第20項が、自社使用の不動産は市場の平均を超える成果を期待して使われており、その企業にとっての価値は時価とは異なるからだと説明しています。
- 役員・従業員に有償で貸している社宅: 形式的には「賃貸されている不動産」にあたり、相手は連結の外の個人ですから、対象に含めるのが条文の素直な読み方です。一方、社宅は福利厚生制度の一部で、使用料も社内規程で低廉に定められているのが通例であるため、「経営管理に使用されている」不動産として対象外に整理する考え方も実務では見られます。無償貸与であれば、そもそも「賃貸」と言えるかという議論になり、対象外の整理はさらに取りやすくなります。
- グループ会社への貸与: 判断は連結の観点で行うため(適用指針第3項)、連結子会社に貸している物件は連結上は自社使用です。これに対し、非連結子会社や持分法適用関連会社への貸与は連結の外への賃貸として対象になります。連結子会社がさらに外部へ転貸している場合も対象です。「誰に貸しているか」ではなく「連結の外に貸しているか」で判断します。
- 元社宅など用途が決まっていない物件: 遊休不動産として対象になるのは「将来の使用が見込まれていない」ものだけです。結論の背景第23項は、遊休状態になって間もなく、将来の使用の見込みを定めるのに必要な期間にあるときは、これまでの使用状況等に照らして判断するとしています。役員の退任直後に空いた社宅なら直前まで社宅だった事実を踏まえて判断できますが、方針を決めないまま数年が過ぎれば「使用が見込まれていない」と評価せざるを得なくなります。
また、自社使用部分と賃貸部分が混在する不動産でも、賃貸部分の割合が低いと考えられる場合は含めないことができます(同基準第7項)。ただし割合の数値基準は示されていません。
想定ケースで、都心のマンション4戸を保有する法人の区分を並べてみます。金額は説明のための仮置きです。
| 住戸の使い方 | 注記対象の考え方 | 期末時価 |
|---|---|---|
| 役員社宅として有償貸与 | 形式重視なら対象、経営管理と整理すれば対象外 | 2億2,000万円 |
| 連結子会社の社宅として貸与 | 連結の観点では自社使用のため対象外 | 1億8,000万円 |
| 第三者へ賃貸(期末時点で空室) | 賃貸目的の保有として対象(一時的な空室でも外れない) | 1億5,000万円 |
| 元社宅を用途未定のまま保有 | 将来の使用見込みの有無で判断 | 1億2,000万円 |
同じ「マンション1住戸」でも4通りの結論があり得ます。会計基準にも適用指針にも社宅を名指しした定めはないため、どちらの整理を採るにしても、使用料の水準・規程上の位置づけ・保有の経緯といった判断の根拠を文書に残し、監査人と合意したうえで継続して適用することが要点です。年度ごとに整理が揺れる状態が、いちばん説明がつきません。社宅の使用料の水準そのものについては「役員社宅の適正賃料はいくら?」で整理しています。
第2章:賃貸等不動産の時価開示はどこまで求められるか
2-1. 重要性は「時価ベース」で判断する
賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合は、注記そのものを省略できます(同基準第8項ただし書き)。問題はその判断方法です。適用指針第23号第8項は、賃貸等不動産の貸借対照表日における時価を基礎とした金額と、時価を基礎とした総資産の金額とを比較して判断するとしています。帳簿価額どうしの比較ではありません。数値基準(何%以下なら省略可)は示されていないため、実務では監査人と協議して判断します。
想定ケースで確認します。数値は考え方を示すためのものです。
| 項目 | 帳簿価額ベース | 時価ベース |
|---|---|---|
| 賃貸等不動産 | 20億円 | 45億円 |
| 総資産 | 500億円 | 525億円 |
| 総資産に占める割合 | 4.0% | 約8.6% |
昭和期に取得した都心の賃貸ビルのように含み益が大きい物件では、帳簿価額では4%でも、時価で見ると倍以上の比重になります。同第23項が、総資産の側にも含み損益相当額を勘案する必要があるとしているのはこのためです。帳簿価額だけを見て「重要性は乏しい」と判断すると、注記の省略が監査で認められないおそれがあります。
なお、この判断に使う時価は、後述する一定の評価額や指標に基づく価額で把握してよく、建物等の償却性資産は適正な帳簿価額を用いることができます(同第23項)。重要性の判断のためだけに全物件を鑑定する必要はありません。
2-2. 原則的な時価算定と「みなし時価」の3段階
適用指針第23号は、物件の重要性と価格の変動の大きさに応じて、時価の算定方法を段階的に定めています。
| 区分 | 時価の算定方法 | 根拠 |
|---|---|---|
| 原則 | 不動産鑑定評価基準による方法又は類似の方法 | 第11項 |
| 指標に重要な変動がない | 取得時・直近の原則的算定の価額を指標で調整 | 第12項 |
| 変動が軽微 | 取得時・直近の原則的算定の価額をそのまま使用 | 第12項 |
| 重要性が乏しい物件 | 一定の評価額や指標に基づく価額 | 第13項 |
第13項の「一定の評価額や指標」について、同第33項は、実勢価格や査定価格などの評価額、公示価格、都道府県基準地価格、路線価による相続税評価額、固定資産税評価額を例に挙げています。容易に入手できる評価額や指標を合理的に調整したものも含まれ、建物等の償却性資産は適正な帳簿価額をもって時価とみなすことができます。
国土交通省「財務諸表のための価格調査の実施に関する基本的考え方」は、不動産鑑定士が行う価格調査を、不動産鑑定評価基準にのっとった鑑定評価である「原則的時価算定」と、手法を選択的に適用したり一定の評価額等に基づいたりする「みなし時価算定」とに分けています。会計上の区分と鑑定士の成果物は、この対応関係で結びついています。
2-3. 時価の把握が極めて困難な場合
将来も使用が見込まれず売却も容易でない山林や、着工して間もない大規模開発中の不動産などは、時価を把握することが極めて困難な場合があります(同第34項)。この場合は時価を注記せず、重要性が乏しいものを除き、その事由、概要、貸借対照表計上額を他の賃貸等不動産と区別して記載します(同第14項)。ただし、状況は一様ではないため、安易に「把握困難」とせず個別に判断することが求められます。
第3章:鑑定評価と一定の評価額をどう使い分けるか
3-1. 毎期の負担を減らす物件の振り分け
時価開示の負担を抑える基本は、物件を重要度で振り分けることです。
- 重要な物件(時価が大きい、含み損益が大きい、収益の変動が大きい):鑑定評価による原則的な時価算定を定期的に行う
- 中程度の物件:直近の鑑定評価額を、地価公示の変動率などの指標で調整する(第12項)
- 重要性が乏しい物件:路線価や固定資産税評価額などに基づく価額、建物は適正な帳簿価額を使う(第13項・第33項)
同第28項は、合理的に算定された価額は自社における合理的な見積り又は不動産鑑定士による鑑定評価等として算定するとしています。自社算定も認められていますが、収益物件のDCF法の前提(賃料・空室率・割引率など)を毎期説明できる体制がなければ、監査対応の負担はかえって重くなります。重要な物件は外部の鑑定評価で根拠を固め、それ以外を指標で回すのが現実的です。
3-2. 指標による時点調整のシミュレーション
第12項による調整の考え方を、想定ケースで示します。
- 対象:都内の賃貸オフィスビル1棟
- 前期に取得した鑑定評価額:10億円(土地6億円、建物4億円)
- 当期の指標:対象地域の地価公示の変動率が+3.0%
- 建物:前期から当期の減価償却相当額を控除して2,000万円減
この場合、土地は6億円×1.03=6億1,800万円、建物は3億8,000万円となり、当期末の時価は約9億9,800万円とみなす、という調整が考えられます。調整方法は物件の性格に合わせて合理的に選ぶ必要があり、収益物件では賃料水準や利回りの動きを反映させる方法が適する場合もあります。
ただし、第12項による調整は、指標に重要な変動が生じていないことが前提です。次のような変化があれば、原則的な時価算定に戻る必要があります。
- 主要テナントの退去で稼働率や賃料収入が大きく下がった
- 金利上昇などで投資家の求める利回りが大きく動いた
- 大規模修繕、増改築、用途変更を行った
- 地価が急変した、災害で損傷を受けた
さらに同第32項は、直近の原則的な時価算定から長期間が経過した場合、原則的な時価算定の必要性が高まるとしています。何年ごとに鑑定を入れ直すかは、物件の状況を踏まえて監査人と協議して決めておくのが望ましいでしょう。過去の鑑定評価をいつまで使えるかの考え方は、「3年前の鑑定評価書はまだ使える?有効期限の誤解と再評価が必要な3つのきっかけを不動産鑑定士が解説」でも整理しています。
3-3. 鑑定評価書で確認しておきたい3つの点
時価開示のために鑑定評価書を取得する際は、次の3点を確認すると監査対応がスムーズです。
- 価格の種類が正常価格であるか:時価に対応するのは正常価格です。資産の流動化に関する法律などに基づく特定価格の場合は、DCF法を重視した算定であることを確認します(適用指針第30項・第31項)
- 価格時点が期末日に近いか:期末日から離れている場合は、指標による調整の根拠をあわせて残します
- 収益価格の前提が説明できるか:賃料・空室率・運営費用・割引率と還元利回りの根拠が記載されているかを確認します
当事務所では、財務諸表の注記を目的とする鑑定評価について、評価の前提や根拠を監査人に説明しやすい形で整理することを心がけています。費用の目安は、正式な鑑定評価書が30万円〜(マンション1室・借地権・底地・収益物件などは40万円〜)、金額の目安を知るための価格等調査報告書が15万円〜、相手方資料の検証(セカンドオピニオン)が5万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。
3-4. 決算前に監査人と合わせておく3点
決算直前に論点が噴き出さないよう、次の3点を期中のうちに揃えておくことをお勧めします。
- 物件ごとの区分(対象・対象外)とその根拠:1-4の社宅やグループ会社への貸与のように判断が分かれる物件ほど、根拠を先に固めます
- 算定方法の設計:どの物件を原則的時価算定(鑑定評価)とし、どの物件をみなし時価算定や指標による調整とするか
- 価格時点と成果物の様式:期末日を価格時点とする鑑定評価が決算作業に間に合うか、間に合わない場合に直近の評価額をどの指標で調整するか
区分の考え方が固まっていれば、鑑定評価を依頼する範囲もおのずと決まります。逆にここが曖昧なまま全物件の鑑定評価を発注すると、本来は指標による調整で足りた物件にまで費用をかけることになります。私たちがご依頼をお受けする際も、最初に「原則的時価算定」と「みなし時価算定」のどちらの調査かを確認します。成果物の様式も費用も、ここで変わるためです。
まとめ
賃貸等不動産の時価開示は、全物件を毎期鑑定するものではなく、重要性に応じて算定方法を使い分ける仕組みです。
要点を振り返ります。
- 賃貸等不動産には、賃貸中の不動産に加え、遊休不動産、開発中の不動産、自社ビルの賃貸部分も含まれる
- 有償の社宅は形式的には対象になり得る一方、福利厚生の実態から対象外と整理する考え方もある。連結子会社への貸与は対象外、非連結子会社などへの貸与は対象。どの整理でも根拠を文書化して継続適用する
- 2024年改正で、使用権資産として借手が保有する賃貸等不動産も対象となったが、時価の注記は求められない
- 重要性は帳簿価額ではなく時価ベースで判断するため、含み益の大きい物件を持つ企業は注意が必要
- 原則は不動産鑑定評価基準による算定だが、変動が小さければ指標で調整し、重要性が乏しければ公示価格や路線価などに基づく価額を使える
- 重要な物件は鑑定評価で根拠を固め、重要な変動や長期間の経過があれば原則的な時価算定に戻す運用が、負担と信頼性の両立につながる
上場企業をはじめ、賃貸ビル・遊休地・自社ビルの賃貸部分を保有する経理財務のご担当者様、監査対応を担う公認会計士の先生方は、まず保有不動産の振り分けから見直してみてください。会計処理・開示の判断は監査法人・公認会計士にご確認いただいたうえで、時価の根拠づくりは私たち鑑定士にお任せいただけます。
賃貸等不動産の時価開示や鑑定評価の頻度でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談も承っております。





