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奈良県の地価はどう動いた?9月公表の地価調査(基準地価)を市町村別に読む

公開 執筆 不動産鑑定士 吉田健人
朝もやのかかる盆地を見下ろす丘の住宅地。石積みの擁壁沿いの坂道と、遠景に広がる田園と山並み

毎年9月になると、「奈良県の地価が上がった」「いや南部は下がり続けている」という報道が一斉に流れます。相続した実家をどうするか、売却の時期をいつにするか——判断の材料にしたいのに、県全体の平均値だけを見せられても、自分の土地の話につながらない。そんなもどかしさを感じたことはないでしょうか。

奈良県は、県平均の数字がもっとも役に立たない県のひとつです。同じ県内で、駅徒歩圏の住宅地は上昇し、山間部の集落は年3%を超えて下がり続けています。平均を取れば「ほぼ横ばい」に見えますが、その平均に当てはまる土地はほとんど存在しません。

本稿では、9月に公表される都道府県地価調査(基準地価)がそもそも何なのかを整理したうえで、最新の令和8年地価調査の結果を市町村別・区域別に読み解きます。数字の意味と限界を、私たち鑑定士の実務の視点でお伝えします。

9月に公表される「地価調査」とは何か

知事が判定する、7月1日時点の価格

都道府県地価調査は、国土利用計画法施行令第9条に基づき、都道府県知事が毎年1回、基準地(調査対象として選ばれた地点)の正常な価格を判定して公表するものです。「正常な価格」とは、市場性を有する不動産について、合理的な市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいい、1平方メートルあたりの客観的な価値を表します。

価格時点は毎年7月1日。公表は例年9月中旬で、最新の令和8年地価調査(価格時点2026年7月1日)は、2026年9月16日に国土交通省から全国の取りまとめが公表されました。

奈良県の調査規模は、令和8年も前年と同じ39市町村・275地点です。

3月の地価公示との違いは「時点」と「主体」

よく混同されるのが、3月に公表される地価公示です。両者の違いは次のとおりです。

項目地価調査(基準地価)地価公示
根拠法令国土利用計画法施行令第9条地価公示法
実施主体都道府県知事国土交通省土地鑑定委員会
価格時点毎年7月1日毎年1月1日
公表時期9月中旬3月下旬

もうひとつ実務上重要な違いがあります。地価公示の標準地は都市計画区域内が中心であるのに対し、地価調査の基準地は都市計画区域外にも設定されます。奈良県のように県土の大半が山林で、都市計画区域外の集落を多く抱える県では、地価調査のほうが県内の実態を広くカバーしているのです。

二つを並べると、半年ごとの動きが見える

地価公示(1月1日時点)と地価調査(7月1日時点)を交互に並べれば、半年刻みで地価の方向を追えます。売却時期を検討している方には、この「半年ごとの折れ線」を見る習慣をおすすめします。

なお、地価そのものの位置づけについては、不動産の「時価」とは何か?公示地価・路線価・実勢価格との関係で整理していますので、あわせてご覧ください。

直近データが示す奈良県の転換点

地価公示:全用途が18年ぶりに上昇

国土交通省土地鑑定委員会が実施した令和8年地価公示(価格時点2026年1月1日)のうち、奈良県分398地点の平均変動率は、全用途でプラス0.1%でした(奈良県「令和8年地価公示(奈良県分)結果概要」)。前年の0.0%から転じ、18年ぶりの上昇です。用途別では住宅地がマイナス0.1%(18年連続の下落)、商業地がプラス1.0%(4年連続の上昇)、工業地がプラス2.0%(11年連続の上昇)となっています。

住宅地の継続調査303地点の内訳は、上昇101地点(33%)、横ばい41地点(14%)、下落161地点(53%)。県全体では依然として下落地点が過半を占めています。

地価調査:住宅地は下落、商業地と工業地は上昇

最新の令和8年地価調査(価格時点2026年7月1日、奈良県分)では、住宅地がマイナス0.8%(18年連続の下落)、商業地がプラス1.1%(4年連続の上昇)、工業地がプラス3.7%(13年連続の上昇)、全用途はマイナス0.3%(19年連続の下落)でした(奈良県「令和8年奈良県地価調査の概要と特徴」)。前年の令和7年地価調査(住宅地マイナス0.7%、商業地プラス1.3%、工業地プラス3.8%、全用途マイナス0.2%)と比べると、住宅地は同程度の下落、商業地は上昇幅がやや縮小しています。

住宅地の継続調査211地点の内訳は、上昇48地点、横ばい35地点、下落128地点。6割の地点がなお下落しています。

商業地について奈良県は、近鉄奈良駅・JR奈良駅周辺および近鉄奈良線新大宮駅周辺など奈良市の中心商業地で人流は増加傾向にあるものの、先行き不透明な経済情勢もあって上昇幅はやや縮小傾向にあるとしています。橿原市・生駒市・香芝市・王寺町では、駅周辺や路線商業地の需要が比較的堅調で上昇が続きました。工業地は継続調査8地点がすべて上昇し、大和郡山市の昭和工業団地、生駒市の学研生駒テクノエリア、五條市のテクノパークなら工業団地、御所市の御所工業団地など、災害リスクの小さい内陸部の需要が堅調です。

見るべきは平均ではなく「区域区分」

奈良県の地価調査でもっとも実務的な数字は、住宅地を区域区分で分けた内訳です。令和8年地価調査では次のようになっています。

区域区分地点数令和8年の変動率令和7年の変動率
市街化区域1330.0%(横ばい)プラス0.1%
市街化調整区域36マイナス1.3%マイナス1.2%
都市計画区域外42マイナス2.6%マイナス2.6%

住宅地全体ではマイナス0.8%ですが、市街化区域だけを見れば横ばいです。一方、都市計画区域外は2年続けて年2.6%の下落です。県平均のマイナス0.8%という数字は、この幅の広いばらつきを一本にならしたものにすぎません。あなたの土地がどの区域にあるかで、参照すべき数字はまったく変わります。断言しますが、区域区分を確認せずに県平均を自分の土地に当てはめるのは、誤った相場感を持つ最短の道です。

市町村別に読む:北中部と南部の分岐

主な市町村の住宅地の平均変動率を、直近3回分で並べると次のようになります。

市町村令和7年地価調査令和8年地価公示令和8年地価調査
奈良市プラス1.4%プラス1.3%プラス0.9%
生駒市プラス1.5%プラス1.2%プラス1.0%
橿原市プラス0.3%プラス0.7%プラス0.3%
大和郡山市プラス0.2%プラス0.2%プラス0.1%
天理市マイナス0.7%マイナス0.4%マイナス0.7%
五條市マイナス2.8%マイナス2.7%マイナス2.8%
吉野町マイナス3.5%マイナス3.2%マイナス3.5%

奈良市・生駒市はプラスを保ちながらも、上昇幅は縮小しています。

奈良市・生駒市:駅徒歩圏が牽引する

奈良市と生駒市は、住宅地・商業地ともに上昇が続いています。とくに奈良市の商業地は、令和7年地価調査でプラス5.2%、令和8年地価公示でプラス4.8%、令和8年地価調査でプラス4.3%と、伸びは鈍化しつつも県内で突出した上昇率です。

ただし、これは市全体が一律に上がっているという意味ではありません。奈良県は住宅地について「鉄道駅徒歩圏等の利便性の優れた地域は旺盛な需要が継続している一方、郊外の利便性に劣る地域ではやや減退気味で、ほぼ横ばいから弱含み傾向」と分析しています。同じ市内でも、駅から歩けるかどうかが分岐点になっているのです。

橿原市・大和郡山市:横ばい圏で底堅い

橿原市と大和郡山市は、住宅地がわずかなプラス圏で推移しています。大和郡山市の工業地は令和7年地価調査でプラス6.2%、令和8年地価調査でもプラス6.0%と、県内でも高い上昇率が続いています。住宅地は横ばい、事業用地は堅調という二層構造になっています。

五條市・吉野郡:下落が続く県南部

五條市、吉野町、大淀町、下市町などの県南部は、住宅地が年2〜3%台の下落を続けています。奈良県は「人口減少、高齢化が進行する県南部地域では、需要は依然低調」としており、この傾向は当面続くとみるのが自然です。

公表値を自分の土地に引き付ける3つの手順

手順1:最寄りの基準地・標準地を特定する

奈良県や国土交通省の不動産情報ライブラリでは、基準地・標準地の所在と価格が地点単位で公開されています。まずは対象地の最寄り地点を1つ特定し、その地点の価格と変動率を押さえてください。県平均ではなく地点の数字を起点にする、これが第一歩です。

手順2:区域区分と用途地域を確認する

前述のとおり、市街化区域か、市街化調整区域か、都市計画区域外かで動きがまったく違います。市役所の都市計画課や、自治体の都市計画情報の公開サイトで確認できます。

手順3:地点の個別性で補正する

基準地は、その地域の標準的な画地として選ばれています。対象地が不整形、間口が狭い、接道幅員が小さい、傾斜地であるといった条件を抱えていれば、基準地の単価をそのまま当てはめることはできません。

想定されるケースで考えてみます。奈良市郊外の市街化区域内で、最寄り基準地の価格が1平方メートルあたり8万円だったとします。対象地が160平方メートルなら単純計算で1,280万円ですが、対象地が間口4メートルの旗竿地で、路地状部分が全体の3割を占めるとすれば、実際の市場価値はこの単純計算より2〜3割低くなることも珍しくありません。逆に、角地で整形、南向きの平坦地であれば上振れします。地点の公表価格は出発点であって、結論ではないのです。

不整形地の評価の考え方については、不整形地・旗竿地の評価はなぜ下がる?鑑定士の考え方で詳しく解説しています。

公表値では足りない場面

相続・遺産分割・離婚では、地点の価格をそのまま使えない

遺産分割で相続人の間の取り分を決めるとき、離婚の財産分与で自宅の価値を確定するとき、あるいは相続税申告で路線価による評価が実態と合わないとき。これらの場面で必要なのは、その土地固有の価格です。基準地の単価に面積を掛けた数字は、相手方や裁判所を説得する根拠にはなりません。

こうした場面では、不動産鑑定評価基準に従った鑑定評価書、あるいは調査の範囲や目的を限定して作成する価格等調査報告書(鑑定評価書に準じる形で価格の根拠を示す報告書)を用意することになります。なお、相続税の課税価格の算定そのものは税理士の業務領域ですので、税額に関わる判断は税理士にご確認ください。

取引事例が少ないエリアほど、個別の判断が要る

県南部や都市計画区域外の集落では、そもそも売買の取引事例が極めて少なく、公表値と実際の成約価格が乖離しやすくなります。基準地から遠い、条件の違う土地ほど、公表値からの推計は誤差が大きくなると考えてください。

まとめ

9月に公表される地価調査は、奈良県の地価を半年刻みで追うための重要な公的データです。しかし、県平均の一行だけを読んでも、あなたの土地の判断材料にはなりません。

要点を振り返ります。

  • 地価調査は知事が判定する7月1日時点の価格で、都市計画区域外もカバーする。3月の地価公示(1月1日時点)と交互に見れば半年刻みの動きがわかる
  • 令和8年地価公示の奈良県分は全用途でプラス0.1%となり、18年ぶりに上昇に転じた。ただし住宅地の継続地点の53%はなお下落している
  • 令和8年地価調査の奈良県分は、住宅地マイナス0.8%、商業地プラス1.1%、工業地プラス3.7%、全用途マイナス0.3%。住宅地は市街化区域0.0%、市街化調整区域マイナス1.3%、都市計画区域外マイナス2.6%と、区域区分で大きく分かれる
  • 市町村別では奈良市・生駒市が上昇(ただし上昇幅は縮小)、五條市・吉野郡は年2〜3%台の下落と、県内の分岐がはっきりしている
  • 公表値は出発点にすぎず、不整形・接道・傾斜などの個別要因で実際の価値は上下する

奈良の実家や土地の売却時期を検討している方、遺産分割や財産分与で価格の根拠を求められている方は、公表値の読み方から具体的な物件の評価まで、私たち鑑定士がお手伝いできます。

奈良県の不動産の評価でお悩みの方は、奈良出身の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。地点の公表価格をどう読めばよいか、鑑定評価が必要な場面かどうかの見極めからご相談いただけます。

この記事を書いた人

吉田 健人代表取締役・不動産鑑定士

株式会社KRE Appraisal代表。相続・離婚・借地・賃料など、価格が争点になる場面の鑑定評価を扱う。不動産鑑定士(登録 第11191号)。

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