COLUMN
査定書を何通も集めるほど、話し合いがこじれる理由

財産分与の準備として、複数の仲介会社に査定を依頼する方は多くいらっしゃいます。売却の場面では合理的な行動です。しかし財産分与の交渉の場面では、査定書を集めれば集めるほど話がこじれる、という逆説が起こりがちです。
査定額はなぜ会社ごとに違うのか
仲介会社の査定は、成約見込みの価格に営業上の判断を重ねたものです。媒介契約を取りたい会社は高めの数字を出しやすく、確実に売り切る自信のある価格を出す会社は低めになります。同じ物件で500万円の開きが出ることも珍しくありません。
この開きは、売却の場面では「参考情報の幅」として機能します。しかし財産分与の交渉では、意味が変わります。
「幅」が「武器」に変わる
家を渡して代償金を受け取る側は、高い査定書を選んで主張したくなります。家を取得して代償金を支払う側は、低い査定書を選びたくなります。査定書が6通あれば、双方が自分に有利な数字を選び、残りは無視する。
こうなると、査定書は価格を知るための資料ではなく、交渉の武器になります。相手が出してきた査定書は「操作された数字」に見え、資料が増えるほど不信感が積み上がる。数字の議論のはずが、信頼の議論にすり替わっていきます。
平均を取っても解決しない
「では全部の平均を取ろう」という提案も、実はあまり筋がよくありません。各査定の前提(想定した販売期間、リフォームの扱い、参照した事例)がバラバラなまま平均しても、意味のある数字にはならないからです。偏った査定が1通混ざっているだけで平均は動きます。
抜け出すには「検証できる1つの数字」
必要なのは、数字の数を増やすことではなく、根拠を検証できる数字を1つ置くことです。不動産鑑定士の評価書は、採用した事例・補正の過程・適用した手法がすべて書面に記載されるため、「どこに異論があるのか」を特定できます。
合意できるかどうかはその先の話ですが、少なくとも水掛け論からは抜け出せます。すでに査定書が何通も積み上がって膠着している場合は、それらの査定書の検証から始めることもできます。どの査定が実勢に近いのかの見立てをつけるだけでも、話し合いの整理になります。





