COLUMN
減損の兆候はどう判定する? ― 不動産の時価と簿価の乖離を把握する実務

決算期が近づくと、監査法人から「保有不動産に減損の兆候はありませんか」と問われる――上場企業やその子会社の経理ご担当者様にとって、毎期避けて通れない確認事項ではないでしょうか。
しかし、減損の兆候の有無を答えるには、そもそも保有不動産の時価を把握していなければなりません。「簿価はすぐ分かるが、時価と言われても根拠を示せない」というのが、多くの企業の実情だと私たちは感じています。
本記事では、減損の兆候の判定と不動産の時価の関係、そして監査対応で鑑定評価書が果たす役割を、私たち鑑定士の立場から整理します。
減損の兆候とは何か
会計基準が示す4つの兆候
減損会計(保有資産の収益性が低下し投資額の回収が見込めなくなった場合に、帳簿価額を引き下げる会計処理)では、まず「減損の兆候」の有無を判定します。固定資産の減損に係る会計基準は、兆候の例として次の4つを挙げています。
- 営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローの継続的なマイナス
- 使用範囲または方法についての回収可能価額を著しく低下させる変化
- 経営環境の著しい悪化
- 市場価格の著しい下落
「市場価格の著しい下落」と時価
不動産で特に問題になるのが4つ目の「市場価格の著しい下落」です。実務上は、市場価格が帳簿価額からおおむね50%程度以上下落した場合が目安とされます。つまりこの判定は、時価を把握して初めて可能になります。
簿価と時価の乖離をどう把握するか
毎期のモニタリングが出発点
兆候判定は毎期行うものですから、保有不動産ごとに簿価と時価の乖離を継続的にモニタリングする体制が出発点になります。取得から年数が経った物件ほど簿価と時価の乖離は大きくなりがちで、高級マンションのように1件あたりの金額が大きい資産は、乖離が損益に与えるインパクトも大きくなります。
時価把握の方法には段階がある
時価の把握方法は一つではありません。公示価格等の指標や近隣の取引情報による簡便な把握から、不動産鑑定士による価格等調査報告書、そして不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価書まで、精度と費用に応じた段階があります。すべての物件に毎期鑑定評価書を取る必要はなく、金額的重要性や下落の程度に応じた使い分けが合理的です。
なお、賃貸に供している物件については、賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準により時価の注記が求められる場合もあり、減損の兆候判定と共通の時価情報を整備しておくと実務負担を抑えられます。
価格等調査報告書の費用目安
15万円〜
正式な鑑定評価書は40万円〜。用途に応じて使い分けます
監査法人対応で鑑定評価書が果たす役割
兆候ありと判定された場合
兆候が認められ、減損損失の認識・測定へ進む場合、回収可能価額の一つである正味売却価額(市場で売却した場合の価格から処分費用見込額を控除した金額)の客観的な根拠が必要になります。第三者である不動産鑑定士の鑑定評価書は、この場面で監査に耐える根拠資料として機能します。
兆候なしの裏づけとして
逆に、「時価は簿価を大きく下回っていない」ことを示し、兆候なしという判断を裏づける資料として鑑定評価書や調査報告書が使われる場面もあります。監査法人への説明が毎期難航している物件こそ、一度客観的な時価資料を整えることで、その後の対応が安定します。あなたの会社の固定資産台帳に、時価の裏づけがないまま残っている物件はないでしょうか。
会計処理の判断は監査人・税理士にご確認ください
減損の兆候の有無や減損損失の認識・測定といった会計処理の最終判断は、企業と監査人が行うものです。具体的な処理は監査法人・顧問税理士にご確認ください。当事務所は、その判断の前提となる不動産の時価を客観的に示す役割を担います。
なお、決算日を価格時点とする鑑定評価は、決算期末に依頼が集中します。兆候判定に時価資料が必要になりそうな物件は、期末の2〜3か月前までにご相談いただくと、監査法人との書式のすり合わせも含めて余裕を持った対応が可能です。
まとめ
- 減損の兆候のうち「市場価格の著しい下落」の判定は、不動産の時価把握が前提となる
- 簿価と時価の乖離は毎期のモニタリングで把握し、重要性に応じて時価資料の精度を使い分ける
- 鑑定評価書は、兆候あり・なしのいずれの判断でも監査対応の客観的根拠となる
- 会計処理の最終判断は監査人・税理士への確認が必須
保有マンション・不動産の減損対応にお悩みの経営者様、経理ご担当者様は、ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談で、鑑定評価の必要性と概算費用をご案内します。





