COLUMN

熟年離婚と自宅の財産分与──長い婚姻期間ならではの論点

公開 執筆 不動産鑑定士 吉田健人
熟年離婚と自宅の財産分与──長い婚姻期間ならではの論点

婚姻期間20年、30年を超えるご夫婦の離婚では、自宅の財産分与に若い世代とは異なる論点が現れます。長く住んだ家ほど、取得の経緯は記憶の彼方にあり、この先の人生設計との兼ね合いは重くなります。

ローンは終わっていることが多い

熟年離婚の自宅は、住宅ローンを完済しているか、残債がわずかであることが多いのが特徴です。オーバーローンの心配がない代わりに、自宅の時価がほぼそのまま分与対象の金額になるため、評価額の影響がダイレクトに効きます。

評価額3,000万円なら分け合う金額は3,000万円。評価が500万円ずれれば、やり取りする金額が250万円動きます。ローンという緩衝材がない分、時価の精度がそのまま結果を左右します。

取得経緯の記憶と資料が薄れている

30年前の購入時に、どちらの親がいくら援助したか。買い替えの際に前の家の売却代金(婚姻前から持っていた家かもしれません)をいくら充てたか。特有財産の主張に関わる事実ほど、資料が失われ、記憶が食い違いがちです。

古い通帳、当時の売買契約書、贈与の記録。実家の残置物の中から出てくることもあります。主張を組み立てられるかは資料次第なので、心当たりのある書類は早めに探しておくことをおすすめします。按分計算には購入時点や買い替え時点の価格が必要になることがあり、こうした過去時点の評価は鑑定評価の領域です。

「住み続けたい」の重みが違う

長年住んだ家への愛着、地域とのつながり、通院先。高齢期の転居は、若い世代の引っ越しとは負担の質が違います。一方で、家を取得すれば老後資金の多くを不動産という換金しにくい資産で持つことになります。

  • 家を取得して現金を渡す:住環境は守れるが、老後の手元資金が薄くなる
  • 現金を受け取って家を渡す:資金は確保できるが、住まいを探し直すことになる
  • 売却して分ける:双方が資金を得るが、双方が転居する

この比較は、家の時価が確定して初めて具体的な数字になります。年金分割や退職金の分与と合わせた全体設計は、弁護士やファイナンシャルプランナーの領域ですが、その土台に不動産の時価があることは変わりません。

リースバックの勧誘には慎重に

近年、「自宅を売っても住み続けられる」リースバックの広告が増えています。離婚時の資金化の手段として提案されることもありますが、売却価格が市場水準より低めに設定されやすいこと、家賃負担が続くことなど、条件をよく確認すべき取引です。

提示された買取価格が妥当かどうかは、時価と比べなければ判断できません。契約前にセカンドオピニオンとして評価を取ることもご検討ください。

この記事を書いた人

吉田 健人代表取締役・不動産鑑定士

株式会社KRE Appraisal代表。相続・離婚・借地・賃料など、価格が争点になる場面の鑑定評価を扱う。不動産鑑定士(登録 第11191号)。

プロフィール →
お問い合わせLINE電話する
↑