COLUMN
不動産鑑定の現地調査では何を見る?当日の流れと依頼前に揃える資料

「不動産鑑定の現地調査では、鑑定士は何を見ているのか」「家の中まで見られるのか、立ち会わないといけないのか」——鑑定評価を初めて依頼される方から、当事務所によくいただくご質問です。登記簿や地図を見れば分かるはずなのに、なぜわざわざ現地へ行くのか、不思議に思われる方もいるでしょう。
結論から申し上げると、現地調査は「書類に書かれた不動産」と「実際にそこにある不動産」が同じかどうかを確かめ、書類には出てこない減価や増価の要因を拾うための工程です。接道・境界・越境・高低差・建物の状態は、現地でなければ確認できません。依頼者の方にお願いしたいのは、立会い(または鍵の手配)と、依頼者でなければ用意できない数点の資料だけです。
この記事では、私たち鑑定士が現地調査で見ている項目を分野別に整理し、調査当日の流れ、事前に揃えると評価が早く正確になる資料を一覧にします。奈良県ならではの確認ポイントも紹介します。
不動産鑑定の現地調査とは何か
評価基準が求める「対象不動産の確認」
不動産鑑定評価基準(国土交通省)は、鑑定評価の手順の一つとして「対象不動産の確認」を定め、対象不動産の物的確認(所在・形状・面積・建物の構造など)と、権利の態様の確認(所有権・借地権・賃借権など)を行うよう求めています。その確認は、実地調査、聴聞(関係者への聞き取り)、公的資料の確認などによって的確に行う必要があるとされています。
つまり現地調査は鑑定士の任意のサービスではなく、鑑定評価の手順に組み込まれた工程です。鑑定評価書には、実地調査を行った年月日、調査した鑑定士の氏名、立会人の氏名と職業、調査の範囲(内覧の有無を含む)などを記載します。どこまで見たうえでの結論なのかを、第三者が検証できるようにするためです。
書類と現地が食い違うのは珍しくない
登記簿の地積と実際の面積が違う、公図の形と現況が違う、増築部分が登記されていない——こうした食い違いは、古くからの住宅地や相続で長く放置された不動産では珍しくありません。書類だけで評価すると、存在しない面積に値段を付けたり、価値を下げる要因を見落としたりします。現地調査は、その食い違いを価格に反映させるための作業です。
価格等調査報告書でも現地は見るのか
不動産鑑定評価基準に則らず、目的と範囲を限定して行う価格等調査報告書(金額の目安を知るための価格調査)では、依頼目的によっては実地調査を省略し、机上で調査することもあります。ただし、その場合は省略した事実と、それが結論に与える影響を報告書に明記します。裁判所・税務署・金融機関に提出する目的であれば、現地調査を伴う鑑定評価書を選ぶのが基本です(いわゆる「簡易鑑定」で足りますか?鑑定評価書と価格等調査報告書の使い分け)。
鑑定士が現地調査で見ている項目
現地で確認する項目を、土地・周辺環境・建物の3つに分けて示します。
土地:接道・境界・越境・高低差
| 確認項目 | 現地で見ること | 価格への影響の例 |
|---|---|---|
| 接道 | 道路の幅員、接している長さ、道路の種類 | 幅員4m未満ならセットバックで有効面積が減る |
| 境界 | 境界標(杭・プレート)の有無、塀の位置 | 境界未確定は売却時の負担として減価要因 |
| 越境 | 屋根・樋・塀・樹木のはみ出し | 是正費用や隣地との調整が必要になる |
| 高低差・形状 | 道路との高低差、擁壁の状態、傾斜 | 擁壁の造り直しが必要なら大きな減価 |
接道は特に重要です。建築基準法は、建物の敷地が幅員4m以上の道路に2m以上接することを原則としています(建築基準法第42条・第43条)。現地で道路の幅を測り、役所の道路台帳や指定道路図と突き合わせて、建て替えができる土地かどうかを確かめます。
周辺環境:街並みと嫌悪施設
対象不動産そのものだけでなく、周辺の街並みも見ます。住宅の建ち並び方、店舗や工場の混在、最寄り駅までの実際の道のり(坂道・踏切の有無)、騒音・におい、墓地や高圧線などの嫌悪施設(周辺にあると価格を下げる施設)の有無です。地図上の距離が同じでも、駅まで急な坂が続く住宅地は需要が弱くなります。これは取引事例を選ぶときの比較の物差しにもなります。
建物:構造・劣化・増改築の跡
建物は、外壁・屋根・基礎のひび割れ、雨漏りの跡、床の傾き、設備の更新状況などを確認します。登記簿や固定資産税の課税明細書と照らして、未登記の増築や用途の変更がないかも見ます。室内に入れる場合は、内装・水回りの状態や、リフォームの範囲を確認します。建物の価値は原価法(再調達原価から経年などによる減価を差し引く手法)で求めることが多く、劣化の程度やリフォーム履歴が減価の幅を左右します。
調査当日の流れと所要時間
当日の標準的な流れ
- 到着・ご挨拶(立会いの方がいる場合は、物件の経緯や使い方を伺う聴聞から始めます)
- 土地の外回り(接道・境界標・越境・高低差・擁壁の確認と写真撮影)
- 建物の外観(外壁・屋根・基礎・増築部分)
- 室内(内覧ができる場合。各部屋・水回り・設備)
- 周辺の街並み・最寄り駅までの道のりの確認
所要時間は、戸建住宅で1〜2時間程度が目安です。広い土地や複数の建物、賃貸中の物件では長くなります。現地調査とは別に、市役所・法務局での調査(都市計画・道路・埋蔵文化財などの確認)も行います。
立会いは必須か、県外在住でも依頼できるか
立会いは必須ではありません。土地だけの評価や、外観で足りる場合は、鑑定士だけで調査できます。室内の確認が必要な場合でも、鍵を郵送でお預かりする、管理会社や近隣のご親族に解錠をお願いするといった方法がとれます。奈良の実家を相続し、県外から依頼される方の多くはこの方法を選ばれています(県外在住のまま奈良の実家相続を進める手順|リモート完結の流れ)。
内覧ができないときの扱い
遺産分割で共有者の協力が得られない、賃借人が入居中で室内に入れないといった理由で、内覧ができない場合もあります。その場合は、外観と資料から建物の状態を推定し、内覧ができなかったことと、その理由を鑑定評価書に明記します。評価自体ができなくなるわけではありませんが、推定に頼る部分が増えるため、図面や過去の写真など代わりになる資料が重要になります。
不動産鑑定の現地調査で見つかる減価:想定されるケース
現地調査で何が分かるのかを、仮の数値で示します。
想定:奈良市西部の丘陵地に建つ戸建住宅
奈良市西部の住宅地にある、土地200㎡の戸建住宅を想定します。周辺の標準的な土地の価格を1㎡あたり10万円とすると、書類上の土地価格は2,000万円です。ところが現地調査で、次の2点が分かったとします。
- 前面道路の幅員が実測3.2mで、道路の中心から2mまで敷地を後退(セットバック)させる必要がある。間口は12m
- 道路から敷地まで約2mの高低差があり、古い空石積み(コンクリートで固めていない石積み)の擁壁で支えられている。建て替え時には擁壁の造り直しが求められる可能性が高い
試算:書類だけの評価との差
セットバックが必要な面積は、(2m − 3.2m ÷ 2)× 12m = 0.4m × 12m = 4.8㎡です。この部分は道路として扱われ建物を建てられないため、4.8㎡ × 10万円 = 48万円分が減価になります。
擁壁は、造り直しの費用を仮に300万円と見込むと、買主はその負担を差し引いて価格を考えます。単純化すると、土地価格は2,000万円 − 48万円 − 300万円 = 1,652万円となり、書類だけの評価より約17%低くなります(実際の評価では、擁壁の規模や構造の確認、市場での受け止められ方を踏まえて減価の幅を判断します)。
逆に、現地で境界標がすべて確認でき、越境もなければ、それは売却しやすさにつながるプラスの確認材料になります。現地調査は「下げる理由探し」ではなく、価格を正しく決めるための事実確認です。
奈良県で特に確認するポイント
奈良県では、全国共通の項目に加えて次の点を重点的に確認します。
- 埋蔵文化財包蔵地(遺跡があると分かっている土地)に当たるか。工事の前に届出や発掘調査が必要になることがあります(土地が「遺跡の上」だったら価格はどうなる?奈良の埋蔵文化財包蔵地と発掘調査の負担)
- 風致地区・歴史的風土保存区域など、建物の高さや色、造成を制限する区域に当たるか
- ならまちや今井町などの路地奥にある町家の接道状況
- 学園前・生駒など西部丘陵の造成住宅地にある擁壁・高低差
鑑定評価の必要書類:依頼前に揃える資料
鑑定士が取得できる資料、依頼者にお願いする資料
登記簿や公図のように誰でも取得できる資料は、当事務所で取り寄せます。依頼者の方にお願いしたいのは、手元にしかない資料です。
| 資料 | 主な入手先 | 準備する人 |
|---|---|---|
| 登記事項証明書・公図・地積測量図・建物図面 | 法務局 | 鑑定士 |
| 都市計画・道路・埋蔵文化財の資料 | 市町村役場など | 鑑定士 |
| 固定資産税の課税明細書 | 毎年の納税通知書に同封 | 依頼者 |
| 建築確認済証・検査済証・設計図面 | 新築時の書類 | 依頼者 |
| 境界確認書・確定測量図 | 過去の測量時の書類 | 依頼者 |
| 賃貸借契約書(賃貸中・借地の場合) | 契約時の書類 | 依頼者 |
| リフォーム・修繕の記録 | 工事の見積書・領収書 | 依頼者 |
マンション1室の場合は、管理規約、管理費・修繕積立金の額が分かる書類、長期修繕計画があると評価が正確になります。
資料が見つからなくても依頼はできる
相続した実家では、建築確認済証や測量図が見つからないことがよくあります。その場合でも依頼は可能です。役所の建築計画概要書(建築確認の記録)を取得したり、現地で実測したりして補います。資料が揃わないことを理由に相談を先延ばしにするより、手元にある分だけで早めにご相談いただく方が、全体の期間は短くなります。
依頼から納品までの不動産鑑定の流れ
- 初回相談(無料・Zoomや電話でも可)で目的・価格時点・対象不動産を確認
- お見積りの提示、ご依頼の確定
- ご入金の確認後に着手。資料の取得と役所調査
- 現地調査(日程は立会いの有無に合わせて調整)
- 評価・鑑定評価書の作成、納品
資料が揃ってから納品まで、おおむね2〜3週間が目安です。費用の目安は、正式な鑑定評価書が30万円〜(マンション1室・借地権・底地・収益物件などは40万円〜)、金額の目安を知るための価格等調査報告書が15万円〜、相手方資料の検証(セカンドオピニオン)が5万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。
まとめ
現地調査は、書類上の不動産と現実の不動産を突き合わせ、価格に効く事実を拾うための、鑑定評価に欠かせない工程です。依頼者の負担は、立会いか鍵の手配と、手元の資料の提供が中心です。
要点を振り返ります。
- 現地調査は不動産鑑定評価基準が定める「対象不動産の確認」の一部で、調査日・立会人・内覧の有無は鑑定評価書に記載される
- 土地は接道・境界・越境・高低差、建物は劣化と増改築の跡、周辺は街並みと嫌悪施設を確認する
- 戸建住宅の現地調査は1〜2時間程度。立会いは必須ではなく、県外在住でも鍵の手配で対応できる
- 内覧ができない場合も評価はできるが、その旨と理由を明記し、図面・写真などで補う
- 依頼者に用意をお願いするのは、課税明細書・建築確認関係の書類・境界の書類・賃貸借契約書・修繕記録など、手元にしかない資料
- 奈良県では埋蔵文化財包蔵地・風致地区・路地奥の接道・丘陵地の擁壁を重点的に確認する
これから相続・遺産分割・売買などで鑑定評価を依頼しようとしている方、県外に住んでいて奈良の不動産の調査をどう進めるか不安な方、依頼者に資料準備を案内したい税理士・弁護士・司法書士の先生方は、まず手元にある資料を確認するところから始めてください。
奈良県の不動産の評価でお悩みの方は、奈良出身の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。「どの資料が要るのか分からない」という段階でも構いません。お問い合わせからお気軽にご相談ください。
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