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区分所有補正率の計算方法 ― 4つの指数と計算例でわかるタワマン相続税評価

公開 更新 執筆 不動産鑑定士 吉田健人
区分所有補正率の計算方法 ― 4つの指数と計算例でわかるタワマン相続税評価

「自分のマンションの相続税評価額は、結局いくらになるのか」──2024年(令和6年)1月から適用が始まった区分所有補正率により、タワーマンションの相続税評価は計算の仕組みそのものが変わりました。本記事では、補正率の計算手順を具体例で追いながら、計算してもなお残る「時価との乖離」に不動産鑑定評価がどう関わるかを解説します。

本記事の前提

本記事は2026年8月時点の制度に基づく一般的な解説です。個別の相続税申告の取り扱いは、必ず税理士にご確認ください。当事務所は税理士の先生方と連携し、評価額の算定部分を鑑定評価でサポートしています。

改正前の評価方法と、補正率が導入された理由

改正前は「路線価×持分+固定資産税評価額」の積み上げ

改正前のマンションの相続税評価額は、土地部分(路線価などによる敷地全体の評価額×敷地権の割合)と、建物部分(固定資産税評価額)を単純に積み上げて求めていました。この方式は、敷地を多数の住戸で分け合うタワーマンションほど土地部分が小さくなり、しかも高層階の眺望や希少性といった市場で高く評価される要素がどこにも反映されません。その結果、高層階や湾岸エリアの住戸では、相続税評価額が市場価格の3〜4割程度にまで圧縮されることが珍しくありませんでした。いわゆる「タワマン節税」が注目された背景です。

補正率は「6割未満の物件を6割に引き上げる」仕組み

国税庁は2023年(令和5年)9月に法令解釈通達「居住用の区分所有財産の評価について」を定め、2024年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用しています。考え方を単純化した例で示します。

項目改正前改正後
市場価格(想定)1億円1億円
相続税評価額約4,000万円約6,000万円
市場価格に対する水準約40%約60%

ここで誤解しやすいのは、6割が「下限」ではないという点です。次章の表のとおり、評価水準が0.6以上1以下の物件は補正されず、従来どおりの評価のままです。評価水準が1を超える(従来の評価額が市場価格理論値を上回る)物件では、逆に評価額が引き下げられます。補正率は、6割未満の物件を6割の水準にそろえ、市場価格理論値を超える物件を引き下げる仕組みと理解するのが正確です。

区分所有補正率の計算式

計算の全体像

区分所有補正率は、次の3ステップで求めます。

  1. 評価乖離率を4つの指数から計算する
  2. 評価乖離率の逆数である評価水準を求める
  3. 評価水準に応じて補正率を決定する

ステップ1:評価乖離率を求める

評価乖離率は、次の算式で計算します。

評価乖離率 = A + B + C + D + 3.220

指数内容係数
A築年数 × ▲0.033築年数は1年未満切上げ
B総階数指数(総階数 ÷ 33、1を超える場合は1)× 0.239小数点以下第4位切捨て
C所在階 × 0.018複数階にまたがる場合は低い方の階
D敷地持分狭小度(敷地利用権の面積 ÷ 専有面積)× ▲1.195小数点以下第4位切上げ

築年数が経つほどマイナス、総階数が高く所在階が上がるほどプラス、敷地の持分が小さい(=高層で戸数が多い)ほどプラスに働く構造です。つまり築浅・高層・高層階のタワーマンションほど評価乖離率が大きく計算されます。

ステップ2・3:評価水準から補正率を決める

評価水準 = 1 ÷ 評価乖離率

評価水準区分所有補正率
0.6未満評価乖離率 × 0.6(評価額が引き上げられる)
0.6以上1以下補正なし(従来どおりの評価)
1超評価乖離率(評価額が引き下げられる)

「市場価格理論値の6割」に評価水準をそろえる、というのが制度の狙いです。

計算例:湾岸タワーマンションのケース

築5年・総階数40階・所在階30階・専有面積60㎡・敷地利用権面積12㎡の住戸で計算してみます。

  • A:5年 × ▲0.033 = ▲0.165
  • B:40 ÷ 33 = 1.21 → 1超のため1.000 × 0.239 = 0.239
  • C:30階 × 0.018 = 0.540
  • D:12㎡ ÷ 60㎡ = 0.2 × ▲1.195 = ▲0.239

評価乖離率 = ▲0.165 + 0.239 + 0.540 + ▲0.239 + 3.220 = 3.595

評価水準は 1 ÷ 3.595 ≒ 0.278 で0.6未満。したがって区分所有補正率は 3.595 × 0.6 = 2.157 です。

このケースの区分所有補正率

2.157倍

従来の相続税評価額に乗じる倍率(築5年・40階建て・30階住戸の計算例)

従来方式の相続税評価額が4,000万円だった場合、補正後は約8,628万円。市場価格が1.4億円なら、評価額は市場価格の約62%となり、制度が想定する「6割水準」に近づく計算です。

計算してもなお残る「乖離」

補正率は市場価格を直接見ていない

注意すべきは、この計算式が築年数・階数などの形式的な指標だけで作られていることです。眺望の質、角部屋か否か、リノベーションの有無、デベロッパーブランド、直近の相場変動──市場価格を実際に動かす要因は、算式のどこにも登場しません。

そのため、次のようなケースでは補正後の通達評価と時価の間に依然として大きな差が生じます。

  • 眺望阻害や住戸内の状態不良で、時価が通達評価を下回っているケース
  • 相場急騰エリアで、時価が補正後評価をさらに大きく上回っているケース
  • 借地権付きや事故歴など、個別事情が価格に織り込まれるべきケース

時価が通達評価を下回るなら、鑑定評価で立証できる

通達評価が時価より高い場合、不動産鑑定士による鑑定評価書で適正な時価を立証し、時価による申告を検討する余地があります(総則6項の適用が争われた令和4年最高裁判決の逆の構図です)。逆に時価が著しく高いのに通達評価のまま申告すると、否認リスクを抱えることになります。どちらの方向でも、「市場の実勢」と「計算上の評価」の距離を測ることが出発点になります。

通達評価が時価を上回りやすい物件

補正率の導入後は、「補正後の通達評価が市場価格を上回る」ケースも生じ得ます。算式が築年数・階数・敷地持分といった形式的な指標だけで決まる以上、市場が嫌気している事情は評価額に反映されないからです。たとえば次のような物件が考えられます。

  • 築年数が経ち、管理状態の悪化で同じエリアの物件より取引価格が下がっているタワーマンション
  • 周辺で大量供給が続き、中古市場が軟調になっているエリアの物件
  • 管理組合の運営が機能せず、修繕積立金の不足が買い手に敬遠されている物件

想定されるケースとして、湾岸エリアの築20年のタワーマンション中層階を考えます。修繕積立金の不足が表面化し、近隣の同条件の物件より成約価格が下がっていたとします。補正率を機械的に当てはめると、相続税評価額が直近の成約水準を上回る試算になりました。このような場合は、管理状況や修繕計画を含めた個別の事情を踏まえて鑑定評価で時価を示し、時価による申告を検討する基礎資料とすることが考えられます。時価による申告の可否は税務判断ですので、税理士にご確認ください。

通達評価が時価より低すぎる物件

反対に、補正後もなお通達評価が実勢から大きく離れている物件もあります。眺望や階層のプレミアムが極めて大きい最上層の住戸、希少性の高いブランドマンションなどでは、評価水準を6割にそろえても、算式上の市場価格理論値そのものが実勢価格に届かないことがあるためです。こうした物件で通達評価のまま申告した場合、令和4年最高裁判決で争われた「総則6項」(評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる場合に、別の方法で評価できるとする規定)の適用が問題になるリスクがあります。総則6項の考え方は相続税は鑑定評価(時価)で下げられる?総則6項の実務と注意点で整理しています。

ご自身で計算した区分所有補正率と、周辺の成約相場を比べてみてください。「補正後でもまだ差が大きい」と感じたら、それが鑑定評価を検討するサインです。

鑑定評価をいつ依頼すべきか

依頼のタイミングは4つ

タワーマンションの相続税評価で鑑定評価を検討するタイミングは、主に次の4つです。

  1. 相続発生直後:被相続人の保有物件を整理する段階で、補正率を計算し、鑑定評価が必要かどうかを判断する
  2. 申告書の作成中:税理士から「通達評価と市場価格に乖離がありそう」と指摘を受けた段階
  3. 申告後の見直し:すでに申告した評価額が時価を上回っていたと気づいた場面。相続税の更正の請求(納めすぎた税額の減額を求める手続)は、原則として法定申告期限から5年以内に行えます
  4. 生前の資産整理:相続に備えて、現時点での適正な時価を把握しておきたい場合

鑑定評価書の作成には、資料がそろってから通常2〜4週間程度を要します。相続税の申告期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月ですので、相続発生から3〜6か月以内にご相談いただくと、税理士の先生とのスケジュール調整に余裕を持てます。逆算の考え方は相続税の鑑定評価はいつ頼む?申告期限10か月からの逆算スケジュールもご覧ください。

相続開始日と申告時で相場が動いた場合

高級マンションの市場は、金利・為替・海外からの購入動向などの影響を受けやすく、10か月の間に相場が大きく動くこともあります。ここで押さえておきたいのは、相続税の時価はあくまで相続開始日(被相続人が亡くなった日)の価格だという点です。申告までの間に相場が下がっても、相続開始日の価格が下がるわけではありません。

そのため、相続税申告のための鑑定評価は、相続開始日を価格時点とする評価になります。依頼が数か月後になっても、当時の取引事例と時点修正によって相続開始日の価格を求めることができます(価格時点とは?相続の鑑定は「いつの価格」を出すのか)。一方、遺産分割や売却の判断には現在の価格が必要になることもあり、その場合は相続開始日と現在の2時点で評価する方法があります。

費用の目安は、マンション1室の鑑定評価書が40万円〜、2時点で評価する場合は+10万円〜、金額の見当をつける段階の価格等調査報告書が15万円〜です(いずれも税別、ご入金の確認後に着手)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。

まとめ

  • 区分所有補正率は「評価乖離率(4指数+3.220)→評価水準→補正率」の3ステップで計算する
  • 築浅・高層・高層階ほど補正率は大きく、評価額は市場価格の6割水準に近づく
  • ただし算式は市場価格そのものを見ていないため、個別の物件では時価との乖離が残る
  • 乖離が大きい場合は、鑑定評価書による時価立証が申告の選択肢になる

タワーマンションの相続税評価でお悩みの方、顧問先の申告で評価方針を検討中の税理士の先生は、ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談で、鑑定評価の必要性と概算費用をご案内します。

参考資料

  1. 国税庁: 居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)

この記事を書いた人

吉田 健人代表取締役・不動産鑑定士

株式会社KRE Appraisal代表。相続・離婚・借地・賃料など、価格が争点になる場面の鑑定評価を扱う。不動産鑑定士(登録 第11191号)。

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