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価格時点とは?相続の鑑定は「いつの価格」を出すのか|過去時点評価の条件

公開 更新 執筆 不動産鑑定士 吉田健人
秋の朝、奈良の郊外住宅地に建つ木造二階建ての家の門の前で、同じ家と家族が写った色あせた古い写真を両手で掲げている手元

「価格時点とは何ですか。鑑定評価書の日付が2つ書いてあって、どちらが大事なのか分かりません」。相続や離婚の場面で鑑定評価書を手にした方から、よくいただく質問です。父が亡くなったのは2年前、鑑定を頼んだのは今月——このとき出てくる価格は、いったい「いつの価格」なのでしょうか。

結論からお伝えします。鑑定評価の価格は、依頼の目的に応じて決める価格時点(価格の判定の基準日)の1日における価格です。鑑定評価を行った日とは別の日であり、相続税の申告なら相続開始日、遺留分なら相続開始時といったように、過去の日を価格時点に設定することもできます。ただし過去時点の評価には、当時の対象不動産を確認でき、当時の資料が集められるという条件があります。

この記事では、価格時点の考え方を不動産鑑定評価基準(国土交通省が定める鑑定評価の統一ルール)に沿って整理し、相続・遺産分割・離婚など目的ごとに「どの日の価格が必要になるか」、過去時点の評価で何が制約になるか、依頼時に何を伝えればよいかを、奈良の具体例とともに私たち鑑定士が解説します。

価格時点とは何か——鑑定評価の「基準日」

不動産の価格は「ある1日」にしか成り立たない

不動産鑑定評価基準は、価格形成要因(価格を動かす社会・経済・行政上の要因や個別の事情)は時の経過によって変動するため、不動産の価格はその判定の基準となった日においてのみ妥当する、と定めています。そのため鑑定評価では、最初に価格の判定の基準日を確定します。この日が価格時点です。

たとえば奈良市内のある土地が「2,400万円」と評価されたとしても、それは価格時点の1日についての判断です。1年後に周辺で大型商業施設が開業したり、金利が上がったりすれば、同じ土地でも価格は変わります。鑑定評価書の金額は、必ず価格時点とセットで読む必要があります。

「鑑定評価を行った年月日」との違い

鑑定評価書には、価格時点のほかに「鑑定評価を行った年月日」(評価書を作成した日)が記載されます。両者の関係を整理すると次のとおりです。

日付の種類意味相続案件での例
価格時点価格の判定の基準日2024年4月10日(相続開始日)
実地調査日鑑定士が現地を確認した日2026年9月15日
鑑定評価を行った年月日評価書を作成した日2026年10月1日

相続から2年以上たって依頼しても、価格時点を相続開始日に置けば、出てくるのは「2年前の価格」です。評価書の日付が新しいからといって、現在の相場を示しているとは限りません。

現在時点・過去時点・将来時点

基準は、価格時点を鑑定評価を行った年月日との関係で、現在時点・過去時点・将来時点の3つに分けています。

  • 現在時点:売却の参考、担保評価、現在の時価の把握など、もっとも一般的な評価
  • 過去時点:相続税申告、遺留分、過去の取引価格の妥当性の検証、過去の賃料の算定など
  • 将来時点:基準の運用上の留意事項は、すべてを想定・予測することになり不確実にならざるを得ないため、原則として行うべきではないとしています(特に必要があり、妥当性を欠かないと認められる場合に限って設定可能)

相続・遺産分割・離婚——目的によって「どの日の価格」かが変わる

価格時点は鑑定士が自由に選ぶものではなく、依頼の目的が決めるものです。同じ実家でも、使う場面によって必要な日付が違います。

相続税の申告は「相続開始日」

相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は「取得の時における時価」によると定めています。相続による取得の時は相続開始日(被相続人が亡くなった日)ですから、相続税申告に使う鑑定評価は、相続開始日を価格時点とする過去時点の評価になります。申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月なので、依頼時点でも数か月前の日付を価格時点にするのが通常です。申告に鑑定評価を使う判断は税務の領域ですので、具体的な取り扱いは税理士にご確認ください。

遺留分は相続開始時、遺産分割は「分割時」が基本

民法第1043条第1項は、遺留分を算定するための財産の価額を、被相続人が「相続開始の時において有した財産の価額」を基礎として算定すると定めています。遺留分の請求では、相続開始時が価格時点です(詳しくは路線価で計算すると500万円取り損ねる?遺留分侵害額請求の不動産評価と基準時)。

一方、遺産分割では、実務上は分割する時点(調停・審判ではその時点に近い時点)の時価で評価するのが基本とされています。ただし特別受益(生前に受けた住宅資金などの贈与)や寄与分が争点になると、具体的相続分の計算には相続開始時の評価が使われるため、相続開始時と現在の2時点の評価が必要になることがあります。どの時点を採るかは事案と当事者の主張によって変わるため、弁護士にご確認ください。

離婚の財産分与は「別居時」と「現在」を分けて考える

離婚の財産分与では、一般に、分与の対象となる財産の範囲は別居時などを基準に確定し、その評価は現在(分与時に近い時点)で行う扱いが多いとされます。夫婦で住んでいた家の価値が別居後に動いていれば、どちらの日付を採るかで分与額が変わります。こちらも最終的な扱いは弁護士にご確認ください(離婚の財産分与で家をどう評価する?)。

別居時の価格を主張したいのに、手元にあるのは現在の査定書だけ、という状態もよく見られます。仲介会社の査定は「これから売るならいくらか」を示すもので、過去の別居日の価格を示す書面としては作られていません。別居日を価格時点とする鑑定評価で、当時の価格を後から求めることになります(財産分与の「基準時」は1つではない)。

相続税の更正の請求、同族間取引の検証も過去時点

相続や離婚のほかにも、過去の日付の価格が問われる場面があります。

場面価格時点背景となる考え方
相続税の更正の請求・税務調査への対応相続開始日相続税法第22条(取得の時における時価)
遺留分侵害額請求・特別受益相続開始日民法第1043条(相続開始の時の財産の価額)
財産分与別居日など範囲の確定時点と評価時点の整理
同族間売買・資産管理会社への移転の検証取引日取引時点の時価との乖離(低額譲渡など)

相続税の更正の請求(申告した税額が多すぎた場合に減額を求める手続)は、原則として法定申告期限から5年以内であれば行えます(国税通則法第23条第1項)。申告から数年たってから「路線価による評価額が時価を上回っていた」と気づいた場合でも、相続開始日を価格時点とする鑑定評価書が根拠資料の一つになります。もっとも、更正の請求が認められるか、どの手続をとるべきかは税務判断ですので、税理士にご確認ください。

公的な地価にも「価格時点」がある

「相続開始日の時価」を考えるとき、手元の公的な地価がいつの価格なのかを知っておくと、ずれの大きさを見積もれます。

地価公示・地価調査・路線価・固定資産税評価の基準日

指標価格時点(基準日)公表時期
地価公示毎年1月1日3月下旬
都道府県地価調査(基準地価)毎年7月1日9月中旬
相続税路線価毎年1月1日7月1日
固定資産税評価額評価替え年度の前年1月1日(3年ごと)4月

相続税路線価は1月1日時点の価格を基準に、地価公示価格の8割程度を目安に定められています。つまり年の後半に相続が発生した場合、路線価は相続開始日より半年以上前の地価を前提にしていることになります。固定資産税評価額はさらに古く、2024年度の評価替えでは2023年1月1日が基準です。

路線価は「1年間据え置き」、鑑定評価はその日の価格

路線価はその年の相続すべてに同じ金額が使われますが、鑑定評価では価格時点その日の市場を判断します。基準日から価格時点までの価格変動は時点修正(取引事例の時点から価格時点までの価格の動きを反映する作業)で調整します。奈良県内でも、奈良市・生駒市の駅近住宅地のように上昇が続く地域と、県南部・東部のように下落が続く地域では、同じ半年でも時点修正の方向が逆になることがあります(奈良県の地価はどう動いた?)。

過去時点の鑑定評価ができる条件と、資料の制約

基準が定める2つの条件

不動産鑑定評価基準の運用上の留意事項は、過去時点の鑑定評価について次のように定めています。

  • 対象不動産の確認等が可能であること
  • 鑑定評価に必要な要因資料及び事例資料の収集が可能であること

この2つがそろう場合に限って、過去時点の評価を行うことができます。さらに、価格時点から評価を行う時点までに対象不動産や近隣地域が変化している場合は、価格時点に近い時点の確認資料をできる限り集め、それを基礎に判断すべきとされています。

「当時の姿」が残っていないと評価が難しくなる

過去時点の評価で私たち鑑定士がもっとも苦労するのは、価格時点から現地が変わってしまったケースです。

  • 相続後に古家を解体して更地になっている
  • 相続人の一人が増改築や大規模リフォームをしている
  • すでに第三者へ売却し、建物の中を確認できない
  • 周辺で道路が拡幅された、近くの農地が宅地化されたなど地域が変わっている

建物が残っていなければ、当時の建物の状態は写真・図面・登記・固定資産税の課税明細書などから推定するしかありません。資料がそろわなければ精度は落ち、場合によっては鑑定評価そのものをお引き受けできないこともあります。何年も前の時点を、当時の状況を十分に調べないまま評価して懲戒処分を受けた鑑定士の例も公表されています。過去の価格を出すことは可能ですが、「何でも、いつまでも遡れる」わけではないと断言します。

取引事例は「価格時点の前後」で集める

取引事例比較法(似た不動産の取引価格から比べて求める手法)では、価格時点の前後に成立した取引事例を中心に集めます。価格時点より後の事例を使うこと自体は可能ですが、その時点では誰も知り得なかった事情(後から決まった開発計画など)を価格に織り込んではいけません。価格時点に立ち、その日の市場参加者が知り得た情報で判断するのが過去時点評価の原則です。

過去時点評価の3つの手順

過去時点の評価は、「今の価格から適当に割り戻す」作業ではありません。当時の市場を当時の資料で再現する作業です。具体的には次の3つの手順を踏みます。

  1. 当時の事例を集める:手法そのものは現在時点の評価と同じで、土地や戸建てなら取引事例比較法を中心に、必要に応じて原価法や収益還元法で検証します。違うのは、使う事例が価格時点の前後に成約したものになる点です。不動産会社間の物件情報網(レインズ)の成約データや、国土交通省の不動産取引価格情報などから、価格時点に近い事例を探します。
  2. 時点修正で価格時点の水準にそろえる:事例の成約日は価格時点と一致しないため、その間の価格の動きを補正します。不動産鑑定評価基準(総論第7章)は、事例の時点が価格時点と異なり、その間に価格水準が変動している場合は、事例の価格を価格時点の価格に修正しなければならないとしています。修正率は、同じエリアの成約単価の推移や、地価公示・不動産価格指数などの公的指標を組み合わせて判断します。
  3. 当時の状態で対象不動産を確認する:相続後にリフォームした家や、隣に建物が建って日当たりが変わった家では、今の姿をそのまま評価に使えません。当時の写真・図面・修繕の記録などから、価格時点の状態を再現して評価します。誰が住んでいたか、賃貸していたかといった当時の利用状況も確認します。

何年前まで遡れるかは「年数」ではなく「資料」で決まる

何年前の価格時点まで評価できるかに、決まった上限はありません。国土交通省の不動産取引価格情報は2005年7〜9月期の取引から公表されており、取引の多い市街地の住宅地やマンションであれば、10年程度前の価格時点でも評価できる場合があります。反対に、20年以上前の時点や、もともと取引がほとんどない山林・農地・特殊な用途の建物などでは、事例や市場資料が集まらず、精度の高い評価が難しくなります。

当時の状態を示す資料が完全にそろわない場合でも、確認できた範囲と、確認できなかった事項をどう扱ったかを鑑定評価書に明示したうえで評価する方法があります。ただし、資料が足りないまま無理に鑑定評価額を出すことはせず、その場合は正直にお伝えします。

想定されるケース:5年前の相続開始日の価格が遺留分の争点になる

価格が大きく動いた物件では、「今の価格」と「相続開始日の価格」の差がそのまま当事者の利害の差になります。地域を問わず起こり得る例として、都市部のマンションで考えてみます。数値はすべて説明のための想定です。

前提条件

2021年6月に父が亡くなり、都市部のマンション1室(専有面積80平方メートル、高層階)を、遺言により長男がすべて取得しました。2026年になって次男から遺留分侵害額請求を受け、相続開始日の価格が争点になっています。現在の同程度の住戸の成約価格からは、2億4,000万円程度と見込まれています。

当時の事例と時点修正による試算

価格時点(2021年6月)の前後に成約した事例を集め、時点修正を行った結果が次の表です。

事例成約時期成約単価(1平方メートル当たり)時点修正後の単価
A:同じ棟の低い階2020年11月190万円196万円
B:同じ棟の高い階2021年3月225万円228万円
C:近隣の棟の同程度の階2021年9月206万円203万円

ここから階層・眺望・方位・面積の違いを補正し、対象住戸の単価を1平方メートル当たり210万円と判断すると、相続開始日の価格は210万円×80平方メートル=1億6,800万円となります。エリアの平均単価を当てはめるのではなく、同じ棟・近隣の棟の事例から住戸ごとの差を補正している点が重要です。

価格時点を誤ると請求額がこれだけずれる

次男の遺留分の割合を4分の1とし、この住戸以外に財産も債務もないと単純化して、遺留分侵害額を比べます。

評価の方法住戸の価格遺留分侵害額(4分の1)
現在の価格をそのまま使う2億4,000万円6,000万円
相続開始日を価格時点とする鑑定評価1億6,800万円4,200万円

価格時点の違いだけで、遺留分侵害額に1,800万円の差が生じます。民法第1043条が「相続開始の時」を基準としている以上、現在の価格で主張しても、その数字は請求の根拠になりません。一方、相続税申告で使った相続税評価額は、市場価格とは目的も水準も異なるため、遺留分の算定にそのまま使うことにも無理があります。相続開始日を価格時点とする鑑定評価書があれば、双方が同じ土俵で議論できます。具体的な請求額や法的判断は弁護士にご確認ください。

想定されるケース:奈良市の実家を2時点で評価する

前提条件

奈良市の郊外住宅地にある土地180平方メートル・木造2階建て(築40年)の実家を想定します。父が2024年4月に亡くなり、長男が実家に住み続けていますが、遺産分割はまだ成立していません。次男は、長男が2019年に父から住宅取得資金の贈与を受けていたとして特別受益を主張しており、2026年秋に遺産分割調停で鑑定評価を検討することになりました。

2時点の試算

項目相続開始時(2024年4月)現在(2026年10月)
土地の単価1平方メートル当たり13.0万円1平方メートル当たり13.6万円
土地価格2,340万円2,448万円
建物価格120万円60万円
合計2,460万円2,508万円

この想定では、土地は周辺の地価上昇を時点修正で反映して約4.6%上がり、建物は経年で価値が減ったため、合計の差は48万円にとどまりました。差が小さく見えても、具体的相続分の計算と分割時の代償金の計算で使う数字が違えば、当事者の受け取る額は変わります。また、相続後に建物を解体していれば、相続開始時の建物の状態を確認するための写真や図面が不可欠になります。

依頼のときに伝えていただきたいこと

過去時点の評価をスムーズに進めるため、ご依頼の際は次の情報をお知らせください。

  • 評価の目的(相続税申告、遺留分、遺産分割、財産分与、過去の売買の検証など)と提出先
  • 必要な価格時点(相続開始日・別居日などの具体的な日付。複数あればすべて)
  • 価格時点以降の現地の変化(解体・増改築・売却・賃貸の開始など)
  • 当時の状態が分かる資料(写真、建物図面、固定資産税の課税明細書、賃貸借契約書、リフォームの見積書・領収書)

価格時点が決まらないまま評価を始めると、後から「別の日付でも必要だった」と分かり、やり直しになることがあります。目的が決まっていれば、私たち鑑定士が必要な価格時点を一緒に整理します(奈良の不動産を相続したら|手続きの全体像と鑑定評価の役割)。

費用は、土地・戸建ての鑑定評価書が30万円〜で、過去時点と現在の2時点を評価する場合は+10万円〜が目安です(いずれも税別)。金額の見当をつけたい段階であれば、価格等調査報告書(15万円〜・税別)で足りることもあります。詳しくは料金のご案内をご覧ください。

マンション1室の鑑定評価書は40万円〜(税別)です。また、遺留分や遺産分割、財産分与の調停・訴訟など争訟案件は、価格等調査30万円・鑑定評価書60万円(いずれも税別)を起点にお見積りします。いずれもご入金の確認後に着手します。

まとめ

鑑定評価の価格は、依頼の目的に応じて決める価格時点の1日における価格です。評価書を作った日ではなく、価格時点を見なければ、その金額の意味は分かりません。

要点を振り返ります。

  • 価格時点は価格の判定の基準日で、「鑑定評価を行った年月日」とは別の日。現在時点・過去時点・将来時点に分かれ、将来時点の評価は原則として行わない
  • 相続税申告は相続開始日、遺留分は相続開始時が基本。遺産分割は分割時が基本で、特別受益などが争点になると2時点の評価が必要になることがある
  • 地価公示・路線価は1月1日、基準地価は7月1日が基準日。相続開始日とのずれは時点修正で調整する
  • 過去時点の評価は、当時の対象不動産を確認でき、当時の資料を集められる場合に限って行える。解体・増改築・売却の前に当時の資料を残しておくことが大切
  • 税務・法律上どの時点を採るかは、税理士・弁護士にご確認ください

相続税申告や遺留分・遺産分割で「過去のある日の価格」が必要な方、相続から時間がたってしまい評価できるか不安な方、依頼者のために価格時点を整理したい税理士・弁護士・司法書士の先生方にとって、価格時点は最初に確認すべき論点です。

奈良県の不動産について「いつの時点の価格が必要か」から迷われている方は、奈良出身の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。相続での評価は相続のための鑑定評価のページもあわせてご覧のうえ、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

吉田 健人代表取締役・不動産鑑定士

株式会社KRE Appraisal代表。相続・離婚・借地・賃料など、価格が争点になる場面の鑑定評価を扱う。不動産鑑定士(登録 第11191号)。

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