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天理市の土地はいくら?同じ市内で4倍の価格差が生まれる理由と相続での注意点

公開 執筆 不動産鑑定士 吉田健人
初夏の晴れた昼、瓦屋根の民家とブロック塀が続く細い舗装道路の右手に、青々とした水田が奥の山並みまで広がる

「天理市の土地は、だいたい坪いくらですか」——県外にお住まいの相続人の方から、まずこう尋ねられることがよくあります。ネットで調べると「天理市の平均は坪19万円ほど」といった数字が出てきます。その数字自体は間違っていません。ただ、それをご自分の土地に当てはめた瞬間に、判断を誤ることがあります。

天理市は、奈良県内でも「市の平均」がとりわけ役に立たない市のひとつです。天理駅の周辺には商業地と住宅地が密集する一方、市域の東側は大和高原の山間部へと続き、平野部にも農地が広く残っています。同じ市内の住宅地でありながら、公表されている価格には4倍を超える開きがあります。

本稿では、直近の公表値をもとに天理市の地価の実像を確認したうえで、なぜこれほどの差が生まれるのか、そして相続で天理市の不動産を引き継いだ方が何を確認すべきかを、私たち鑑定士の実務の視点で整理します。

数字で見る天理市の地価

住宅地の平均は5万7,400円

国土交通省土地鑑定委員会が公表した令和8年地価公示(価格時点2026年1月1日、奈良県分)によると、天理市の標準地は23地点。用途別の平均価格(1平方メートルあたり)と平均変動率は次のとおりです。

用途地点数平均価格平均変動率
住宅地175万7,400円マイナス0.4%
商業地410万200円マイナス0.7%
工業地13万5,200円プラス0.6%
宅地見込地11万8,800円マイナス1.1%

住宅地の5万7,400円を坪単価に直すと、およそ19万円です。冒頭の「坪19万円」という数字は、ここから来ています。

参考までに、奈良県全体の住宅地の平均価格は6万9,500円、奈良市は10万6,000円、生駒市は9万7,500円、大和郡山市は7万3,200円、桜井市は5万1,600円です。天理市は県平均をやや下回り、北部の奈良市・生駒市の5〜6割、南隣の桜井市よりやや高い水準です。

住宅地だけで4倍以上ひらく

ここからが本題です。同じ令和8年地価公示の天理市の標準地を、住宅地に絞って見ると、1平方メートルあたりの価格は次のようになります。

区分標準地の所在価格
住宅地の最高田部町9万5,500円
住宅地の中位付近柳本町5万7,100円
住宅地の最低遠田町2万2,900円

最高の田部町と最低の遠田町では、4.1倍の差があります。平均の5万7,400円という数字は、この幅を一本にならした結果にすぎません。ご自分の土地が田部町側に近いのか遠田町側に近いのかで、参照すべき数字はまったく変わります。断言しますが、市の平均値をそのまま自分の土地に当てはめるのは、誤った相場感を持つ最短の道です。

唯一上昇したのは工業地

もうひとつ、表から読み取れることがあります。天理市で令和8年地価公示にプラスが付いたのは、西長柄町にある工業地1地点(プラス0.6%)だけでした。住宅地・商業地・宅地見込地はいずれも小幅な下落です。

また、令和7年地価調査(価格時点2025年7月1日、奈良県分)では、天理市の住宅地8地点がマイナス0.7%、商業地2地点がマイナス0.8%でした。半年後の令和8年地価公示では住宅地がマイナス0.4%まで下落幅を縮めましたが、最新の令和8年地価調査(価格時点2026年7月1日)では住宅地マイナス0.7%、商業地マイナス0.8%と、前年と同じ水準の下落に戻っています。奈良市・生駒市のような明確な上昇には至っていません。

奈良県全体の地価の動きについては、奈良県の地価はどう動いた?9月公表の地価調査(基準地価)を市町村別に読むであわせて整理しています。

なぜ同じ市内で4倍の差が生まれるのか

第一の分岐点は区域区分

価格差の最大の要因は、その土地が都市計画のうえでどの区域にあるかです。区域区分(線引き) とは、都市計画区域を、市街化を進める市街化区域と、市街化を抑える市街化調整区域に分ける仕組みをいいます。

市街化区域であれば、用途地域の定めに従って住宅や店舗を建てられます。一方、市街化調整区域では原則として開発が抑制され、誰でも自由に家を建てられるわけではありません。建てられる土地と建てられない土地とでは買い手の数がまったく違い、その差がそのまま価格差になります。

最高価格だった田部町の標準地は、区画整理によって街区が整えられた住宅地に位置します。最低価格だった遠田町は、奈良県が「都市計画法に基づく開発許可の基準に関する条例(奈良県条例)」による指定区域を定めている地区のひとつです。この条例指定区域は、市街化調整区域のうち一定の要件を満たす区域について開発許可の基準を緩和する制度であり、逆にいえば、こうした指定がなければ建築のハードルはさらに高くなります。

第二の軸は、鉄道と道路の距離

天理市には、JR桜井線(万葉まほろば線)が南北に、近鉄天理線が東西に通っています。市内の駅は天理駅のほか、櫟本駅、長柄駅、柳本駅、二階堂駅、前栽駅です。駅から歩けるかどうかは、住宅地の価格を左右する古典的で、いまなお強力な要因です。

一方で、天理市は西名阪自動車道と名阪国道が市域を東西に貫く交通の要衝でもあります。この道路網は、住宅需要よりも事業用地の需要に効きます。天理市で唯一上昇した工業地が西長柄町にあったことは、この構造を象徴しています。住宅地が弱含む一方で、内陸の事業用地には底堅い需要がある——奈良県内で広く見られる二層構造が、天理市にも当てはまります。

第三の軸は天理教の需要

天理市には天理教教会本部があり、全国・海外から参拝者が集まります。市街地には教会関係の施設や宿泊施設が集積し、一般の住宅地・商業地とは異なる需要が働いてきました。

この需要は天理駅周辺の限られた範囲に強く作用します。市街地のなかでも需要の性格が場所によって変わるということです。天理市の商業地で最高価格の川原城町(12万1,000円)と、市西部の嘉幡町(7万円)とでは、同じ「商業地」でも価格形成の論理が違います。

市街地と農地が混在する土地をどう評価するか

「農地」と「宅地見込地」は別のものです

天理市には平野部に広く農地が残っています。ここで混同されやすいのが、農地と宅地見込地の違いです。

宅地見込地 とは、近い将来に宅地へ転換されることが見込まれる土地をいいます。天理市の宅地見込地の標準地(小路町)は1平方メートルあたり1万8,800円でした。これは、いずれ宅地になるという期待が価格に織り込まれた水準です。

一方、市街化調整区域にある農地は、農地法の許可がなければ転用も売買もできません。買い手は原則として農業を営む方に限られます。宅地への転換の見込みが立たない農地は、宅地見込地の水準よりさらに下に位置づけられるのが通常です。

つまり、相続した土地が「畑」だからといって、宅地見込地の数字を当てはめることはできません。地目が畑や山林であれば、まず農地転用の見込みが立つのかどうかから確認してください。

山間部の土地は、買い手を探す難しさが価格に出ます

天理市の東部は大和高原の山間部にあたります。こうした地域では、そもそも売買の事例そのものが乏しくなります。

鑑定評価の実務では、取引事例比較法(似た条件の取引事例と比べて価格を求める手法)が基本ですが、事例が極端に少ない地域ではこの手法だけに頼れません。より広い範囲の事例から地域の格差を検討したり、造成に要する費用の観点を補ったりして、複数の角度から検証します。

「近所で売れた家があると聞いたので、うちも同じくらいで売れるはずだ」というお話をうかがうことがあります。しかし山間部では、その1件が特殊な事情によるものである可能性も十分にあります。

同じ町名でも、土地の形で変わります

区域区分と立地を確認しても、まだ終わりではありません。間口が狭い、旗竿状である、道路との高低差がある、傾斜しているといった個別の条件も、価格を大きく動かします。

標準地は、その地域の標準的な画地として選ばれています。対象地がそこから外れていれば、標準地の単価を掛け算しても実際の市場価値にはなりません。標準地の価格は出発点であって、結論ではありません。

相続で天理市の不動産を引き継いだら

路線価と実際の価値のずれを確認する

相続税の申告では、原則として路線価方式または倍率方式で土地を評価します。路線価は地価公示価格の8割程度を目安に設定されており、多くの場合は簡便で合理的な方法です。

ただし、天理市のように市街地・調整区域・農地・山間部が一つの市内に混在する地域では、画一的な評価方法と実際の市場価値との差が開くことがあります。とくに、買い手を見つけること自体が難しい土地では、そのずれが大きくなりがちです。路線価と実勢価格の関係は、路線価と実勢価格はなぜ違う?相続で損しないための基礎知識をご覧ください。

なお、相続税の申告における具体的な評価方法の選択や税額の計算については、税理士にご確認ください。私たち鑑定士がお示しできるのは、あくまで対象不動産の時価です。

想定されるケース:市街地の実家と山間の農地を同時に相続する

具体的に考えてみます。天理市にお住まいだった親御さまが亡くなり、相続人はご兄弟2人。遺産は、天理駅から徒歩圏にある実家(土地180平方メートル)と、東部山間にある農地約1,500平方メートルの2件だとします。

実家の土地を、住宅地の平均に近い1平方メートルあたり5万7,000円で仮に置くと、土地だけで約1,026万円。一方、山間の農地は、宅地転用の見込みが立たなければ1平方メートルあたり数百円から千円台にとどまることも珍しくありません。面積は8倍以上あるのに、価格は実家の1割にも満たない可能性があります。

ここで起きやすいのが、「面積の広い農地をもらうほうが得だ」という誤解にもとづく話し合いのこじれです。面積と価値は比例しません。遺産分割を公平に進めるには、まず両方の土地について、面積ではなく価値の物差しを揃える必要があります。

なお、上記は説明のための想定であり、実際の価格は個別の条件によって大きく変わります。

必要な書面は、提出先で決まります

では、どのような書面を用意すればよいのでしょうか。答えは提出先で決まります。

税務署や裁判所に出すのであれば、不動産鑑定評価基準に則った 鑑定評価書 が必要です。相続人の間で話し合うための材料であれば、価格等調査報告書(基準に則らずに価格等を調査した結果をまとめた書面)で足りることもあります。どちらが必要かの判断は、いわゆる「簡易鑑定」で足りますか?鑑定評価書と価格等調査報告書の使い分けで詳しく解説しました。費用の目安は料金についてをご覧ください。

まとめ

天理市の土地は、「市の平均は坪19万円」という一行では語れません。市街地・市街化調整区域・農地・山間部という性格の異なる土地が一つの市内に混在し、住宅地だけを見ても4倍を超える価格差があるからです。要点を振り返ります。

  • 令和8年地価公示における天理市の住宅地の平均価格は1平方メートルあたり5万7,400円(平均変動率マイナス0.4%)。県平均の6万9,500円をやや下回る
  • 同じ住宅地でも、最高の田部町(9万5,500円)と最低の遠田町(2万2,900円)では4.1倍の開きがある
  • 価格差の第一の要因は市街化区域か市街化調整区域かという区域区分。次いで駅・道路からの距離、そして天理教関連の独自需要が重なる
  • 農地と宅地見込地は別物。宅地転用の見込みが立たない農地に、宅地見込地の水準を当てはめることはできない
  • 面積と価値は比例しない。広い農地と狭い市街地の宅地を同時に相続した場合、遺産分割では価値の物差しを揃えることが出発点になる

天理市の実家や農地を相続され、どう分けるか・どうするかを決めかねている県外在住の相続人の方。天理市の依頼者を抱え、評価の妥当性に確信が持てずにいる税理士・弁護士・司法書士の先生方。まずは「この土地はどの区域にあるのか」というご相談からで構いません。その整理こそ、私たち鑑定士がもっともお役に立てる部分です。

奈良県の不動産の評価でお悩みの方は、奈良出身の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。天理市の対応については天理市の不動産鑑定、相続に伴う評価は相続のための鑑定評価をご覧ください。ご相談はお問い合わせから承ります。

この記事を書いた人

吉田 健人代表取締役・不動産鑑定士

株式会社KRE Appraisal代表。相続・離婚・借地・賃料など、価格が争点になる場面の鑑定評価を扱う。不動産鑑定士(登録 第11191号)。

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