COLUMN

遺言を書く前に、不動産の時価を把握したほうがよい理由

公開 執筆 不動産鑑定士 吉田健人
遺言を書く前に、不動産の時価を把握したほうがよい理由

「自宅は長男に、預貯金は長女に」——遺言の内容としてよくある形です。しかし、この配分が公平かどうかは、自宅がいくらかによってまったく変わります。時価を把握しないまま書かれた遺言は、遺された家族に紛争の種を残すことがあります。

遺言は「金額」で書けない財産を配分する作業

預貯金は金額が明確ですが、不動産は時価を調べない限り金額がわかりません。固定資産税の納税通知書に載る評価額は課税のための価格で、市場で売れる価格より低いのが通常です(公示価格の7割程度が目安)。

想定されるケースを挙げます。自宅の固定資産税評価額が1,400万円、預貯金が1,500万円。「ほぼ同額だから公平」と考えて自宅を長男に、預貯金を長女に遺したところ、実際の自宅の時価は2,500万円だった——。この場合、本人の意図に反して1,000万円の差がつきます。配分の設計は、時価ベースで行う必要があるのです。

遺留分への備えとしての時価把握

遺言で配分を偏らせる場合、遺留分(兄弟姉妹以外の相続人に法律上保障された最低限の取り分)への配慮が欠かせません。2019年7月施行の民法改正により、遺留分を侵害された相続人は金銭の支払いを請求できることになりました(遺留分侵害額請求)。不動産そのものの共有ではなく、お金で請求される制度になったのです。

つまり、不動産を多く受け取った相続人は、他の相続人から現金の請求を受ける可能性があります。その金額の計算の基礎になるのが不動産の時価です(遺留分の算定は相続開始時の価額が基準とされます)。遺言を書く段階で時価を把握しておけば、遺留分を侵害しない配分を設計したり、請求に備えて資金手当てを考えたりできます。遺留分の主張や遺言書の法的な設計は弁護士に、相続税の試算は税理士にご相談ください。制度の概要は遺留分と不動産評価でも解説しています。

遺言作成前の時価把握の方法

遺言はすぐに効力が生じるものではないため、作成段階では厳密な鑑定評価まで必要ないことも多いです。当事務所では、配分設計の目安とする段階なら価格等調査報告書、遺留分をめぐる争いが具体的に見込まれる場合には鑑定評価書と、目的に応じた使い分けをご提案しています。

時価は変動するため、作成から年数が経ったら見直すことも大切です。地価が大きく動けば、書いた当時は公平だった配分が崩れていることもあります。

まとめ

  • 遺言の配分設計は、固定資産税評価額ではなく時価ベースで行う必要がある
  • 遺留分侵害額請求は2019年7月の民法改正で金銭債権化。不動産を受け取る側に現金請求のリスクがある
  • 作成段階は価格等調査報告書で足りることが多い。年数が経ったら見直しを

遺言を検討中の方、親に遺言を書いてもらう前に財産を整理したい方は、まず不動産の時価把握からご相談ください。

あわせて読みたい:「相続前にやっておくべき不動産の評価対策 ― 路線価と時価の乖離が招く3つのリスク」

この記事を書いた人

吉田 健人代表取締役・不動産鑑定士

株式会社KRE Appraisal代表。相続・離婚・借地・賃料など、価格が争点になる場面の鑑定評価を扱う。不動産鑑定士(登録 第11191号)。

プロフィール →
お問い合わせLINE電話する
↑