COLUMN

香芝市・広陵町の地価は本当に値崩れしにくいのか?同じ町内で4.7倍の差が生まれる理由

公開 執筆 不動産鑑定士 吉田健人
朝の住宅街のゆるやかな坂道を、通勤かばんを持った人が奥へ歩いていく後ろ姿。両側に生垣とブロック塀の戸建住宅、遠景に低い山並み

「香芝や広陵は大阪に通えるから、奈良でも値段が落ちにくいと聞きました」——県西部の住宅をお持ちの方から、よくこう伺います。奈良県内で住宅地の地価がプラスを保っている市町村は限られており、香芝市はその数少ない一つですから、この理解そのものは間違っていません。

ただ、この「大阪通勤圏だから」という説明をご自分の土地にそのまま当てはめた瞬間に、判断を誤ることがあります。2026年9月16日に公表された令和8年奈良県地価調査では、香芝市の住宅地がプラス0.4%である一方、隣の広陵町はマイナス0.6%、上牧町に至ってはマイナス2.1%。同じ「大阪通勤圏」と呼ばれる一帯で、これだけの開きがあります。さらに町の内側を見れば、広陵町の中だけで4.7倍の価格差があります。

本稿では、直近の公表値をもとにこの一帯の地価の実像を確認し、値崩れするエリアとしにくいエリアを分ける本当の境界線はどこにあるのかを、私たち鑑定士の実務の視点で整理します。

数字で確かめる:三つの町の明暗

令和8年地価調査が示したもの

都道府県地価調査は、国土利用計画法施行令第9条に基づき、知事が毎年7月1日時点の基準地の正常な価格を判定して公表するものです。令和8年奈良県地価調査(価格時点2026年7月1日、2026年9月16日公表)における住宅地の平均変動率を、県西部の主な市町と県全体で並べてみます。あわせて、半年前の令和8年地価公示(価格時点2026年1月1日)も載せます。

市町村令和8年地価公示(1月1日)令和8年地価調査(7月1日)
香芝市プラス0.2%プラス0.4%
王寺町プラス0.4%マイナス0.2%
広陵町マイナス0.4%マイナス0.6%
河合町マイナス1.3%マイナス1.2%
上牧町マイナス1.9%マイナス2.1%
奈良県の住宅地全体マイナス0.1%マイナス0.8%

香芝市は半年間で上昇幅をやや広げ、県内でも数少ない住宅地プラスの市となりました。一方、上牧町は年2%を超える下落が続いています。なお奈良県の住宅地全体はマイナス0.8%、18年連続の下落です。

「大阪通勤圏」でひとくくりにはできない

香芝市も広陵町も上牧町も、地図の上では大阪府に近く、いずれも「大阪通勤圏の住宅地」と紹介される一帯です。それでも香芝市と上牧町の間には年2.5ポイントの開きがあり、これは一年だけの偶然ではありません。半年前の地価公示でも、香芝市プラス0.2%に対し上牧町はマイナス1.9%でした。構造的な差だと考えるべきです。断言しますが、「大阪に通えるかどうか」という粒度で自分の土地の相場観を作るのは危険です。

なお、地価調査と地価公示の違いや読み方そのものは、奈良県の地価はどう動いた?9月公表の地価調査(基準地価)を市町村別に読むで整理しています。

分岐点は市町村の境ではなく、駅の性格

広陵町の中だけで4.7倍

広陵町の住宅地の基準地は4地点です。令和8年地価調査の1平方メートルあたりの価格と変動率を並べると、次のようになります。

基準地の所在最寄り駅までの距離価格変動率
馬見南3丁目五位堂 1.5km11万5,000円0.0%
大字平尾築山 1.9km4万700円マイナス0.5%
大字萱野箸尾 400m3万9,300円マイナス0.5%
大字百済松塚 3.1km2万4,500円マイナス1.2%

最高の馬見南3丁目と最低の大字百済では、4.7倍の差があります。しかも、下落を免れているのは馬見南3丁目だけです。「広陵町はマイナス0.6%」という一行は、この四つの数字をならした結果にすぎません。

注目していただきたいのは駅までの距離との関係です。大字萱野は箸尾駅から400メートル、徒歩5分ほどの位置にありながら3万9,300円。対して馬見南3丁目は五位堂駅から1.5キロメートル離れているのに11万5,000円です。駅に近いほど高いという常識が、そのまま成り立っていません。

香芝市の中でも3.8倍

同じことが香芝市でも起きています。令和8年地価調査における香芝市の住宅地の基準地11地点から、特徴的なものを抜き出します。

基準地の所在最寄り駅までの距離価格変動率
真美ヶ丘3丁目五位堂 1km14万円プラス0.7%
すみれ野1丁目五位堂 1.1km13万5,000円プラス2.3%
西真美2丁目五位堂 1.5km12万7,000円0.0%
五位堂6丁目JR五位堂 300m6万7,500円0.0%
畑5丁目二上神社口 650m3万7,200円マイナス0.8%

最高の真美ヶ丘3丁目と最低の畑5丁目で3.8倍。そして、ここにこの記事の核心があります。五位堂6丁目の基準地は「JR五位堂駅から300メートル」という市内屈指の駅近立地でありながら6万7,500円にとどまり、駅から1キロメートル離れた真美ヶ丘3丁目の半分以下なのです。

同じ「五位堂」でも、駅が違えば価格が違う

種明かしをすると、この二つは別の駅です。JR五位堂駅はJR和歌山線の駅で、香芝駅と高田駅の間にあった信号場を2004年に旅客駅へ格上げしたもの。一方、真美ヶ丘の最寄りである五位堂駅は近鉄大阪線の駅で、両者は1キロメートルほど離れています。

近鉄大阪線の五位堂駅は大阪上本町駅から27.1キロメートルの地点にあり、快速急行と急行が停車します。つまり、乗り換えなしで鶴橋・大阪上本町へ出られる。2025年10月には副駅名に「畿央大学前」が加わり、現在は「真美ヶ丘ニュータウン・畿央大学前」です。対してJR和歌山線は、王寺駅で大和路線に乗り換えなければ大阪方面へ出られません。同じ「五位堂」を名乗り1キロメートルしか離れていない二つの駅が、これだけ違う価格を形成しているのです。

値崩れしにくさを決めているのは、駅からの距離ではなく、その駅が大阪とどうつながっているかです。

そしてこの五位堂駅の生活圏は、行政区域をまたいでいます。真美ヶ丘ニュータウンは香芝市東部と広陵町西部にまたがる住宅地で、香芝市側の「真美ヶ丘」「西真美」と広陵町側の「馬見南」「馬見北」「馬見中」は、市場では一つの住宅地として扱われています。だからこそ、真美ヶ丘3丁目の14万円と馬見南3丁目の11万5,000円は水準が近く、同じ広陵町内の大字百済は2万4,500円にとどまるのです。市場は市町村の境界で区切られていません。

なぜ上牧町と河合町は下がり続けるのか

町内に大阪へ直通する駅がない

上牧町には鉄道駅がありません。令和8年地価調査の基準地を見ると、片岡台2丁目の最寄りは大輪田駅まで1.3キロメートル、下牧2丁目は畠田駅まで1.3キロメートル。河合町の基準地も大輪田駅や佐味田川駅が最寄りです。

問題は距離ではなく、その先です。大輪田駅・佐味田川駅・池部駅・箸尾駅は、いずれも近鉄田原本線の駅です。この路線は新王寺駅と西田原本駅を結ぶだけの区間で、他の近鉄路線と改札内でつながっていません。新王寺駅で降りてJR王寺駅まで歩くか、西田原本駅で田原本駅へ乗り換えるかしないと大阪へ出られないのです。畠田駅も同様に、王寺駅での乗り換えが要ります。この「必ず一度乗り換えが要る」構造が、上牧町マイナス2.1%、河合町マイナス1.2%という数字の背景にあります。

丘陵地の住宅団地が抱える二つの負荷

上牧町の基準地の所在を見ると、片岡台、下牧、米山台、松里園といった名前が並びます。1970年代から80年代にかけて丘陵地に開発された分譲住宅団地です。

こうした団地には二つの負荷がかかります。一つは、開発から40年から50年が経ち、当初に入居した世代が一斉に高齢化していること。もう一つは、丘陵地であるがゆえに坂道が多く、駅やバス停まで歩く負担が加齢とともに重くなることです。結果として売却物件が増える一方、買い手となる若い世帯は駅徒歩圏を選ぶ。需給の両側から下押し圧力がかかります。奈良県も令和8年地価調査の分析で、「鉄道駅徒歩圏等の利便性が高く住環境良好な地域は旺盛な需要が継続している」一方、「郊外の利便性に劣る地域においてはやや減退気味」と述べています。

王寺町が示す、駅の力の限界

この構造は、駅に恵まれた町でも働きます。王寺駅はJR大和路線・JR和歌山線・近鉄生駒線・近鉄田原本線が集まる県内有数の交通結節点で、大和路快速で天王寺・大阪方面へ直通できます。その王寺町の住宅地が、令和8年地価公示のプラス0.4%から令和8年地価調査ではマイナス0.2%に転じました。一方で駅前商業地(王寺2丁目)は19万9,000円・プラス2.1%と堅調です。

駅前の商業機能は強いのに住宅地は弱含む。王寺町の住宅地の多くが明神・南元町といった丘陵地の団地であることを考えれば、駅の力だけでは団地の高齢化を打ち消せない、と読むべきでしょう。

「平均」を自分の土地に当てはめると何が起きるか

想定されるケース:香芝市の実家と広陵町の農地

具体的に考えてみます。香芝市にお住まいだった親御さまが亡くなり、相続人はご兄弟2人。遺産は、真美ヶ丘の実家(土地200平方メートル)と、広陵町の大字にある農地約900平方メートルの2件だとします。

実家の土地を真美ヶ丘3丁目の水準に近い1平方メートルあたり14万円で仮に置くと、土地だけで約2,800万円。一方、広陵町の大字の農地は、宅地転用の見込みが立たなければ宅地の水準である2万4,500円をさらに大きく下回ります。面積は4.5倍あるのに、価格は実家の10分の1にも届かない可能性があるのです。

ここで起きやすいのが、「面積の広い農地をもらうほうが得だ」という誤解にもとづく話し合いのこじれです。面積と価値は比例しません。 公平に分けるには、まず両方の土地で価値の物差しを揃える必要があります。同じ構図は天理市の土地はいくら?同じ市内で4倍の価格差が生まれる理由と相続での注意点でも整理しました。

なお上記は説明のための想定であり、実際の価格は個別の条件で大きく変わります。相続税の課税価格の算定や税額の計算については、税理士にご確認ください。私たち鑑定士がお示しできるのは、あくまで対象不動産の時価です。

公表された価格は出発点であって、結論ではありません

基準地や標準地は、その地域の標準的な画地として選ばれています。対象地が不整形である、間口が狭い、接道の幅員が小さい、傾斜しているといった条件を抱えていれば、基準地の単価をそのまま掛け算しても実際の市場価値にはなりません。

とくに丘陵地の住宅団地では、擁壁の状態が価格を左右します。築40年を超える擁壁に不同沈下やクラックが見られる場合、買主は改修費用を見込んで価格を引きます。造成年次の古い団地ほど、この点の確認が欠かせません。

必要な書面は、提出先で決まります。税務署や裁判所に提出するのであれば、不動産鑑定評価基準に則った 鑑定評価書 が必要です。相続人の間で話し合うための材料であれば、価格等調査報告書(基準に則らずに価格等を調査した結果をまとめた書面)で足りることもあります。どちらが必要かの判断は、いわゆる「簡易鑑定」で足りますか?鑑定評価書と価格等調査報告書の使い分けをご覧ください。費用の目安は料金についてに掲載しています。

まとめ

香芝市・広陵町の住宅地が値崩れしにくいという理解は、半分正しく、半分危険です。正しいのは近鉄大阪線五位堂駅の生活圏について。危険なのは、それを市町村単位の話だと受け取ってしまうことです。要点を振り返ります。

  • 令和8年奈良県地価調査(2026年7月1日時点)の住宅地は、香芝市プラス0.4%、広陵町マイナス0.6%、河合町マイナス1.2%、上牧町マイナス2.1%。同じ「大阪通勤圏」で2.5ポイントの開きがある
  • 広陵町は町内だけで4.7倍(馬見南3丁目と大字百済)、香芝市は3.8倍(真美ヶ丘3丁目と畑5丁目)の価格差がある
  • JR五位堂駅から300メートルの基準地が6万7,500円、近鉄五位堂駅から1キロメートルの基準地が14万円。決め手は駅までの距離ではなく、その駅が大阪へ直通しているかどうか
  • 上牧町・河合町の弱さは、近鉄田原本線が他線と改札内でつながらないことと、丘陵地の分譲住宅団地の高齢化が重なった結果である
  • 真美ヶ丘ニュータウンは香芝市と広陵町にまたがる。市場は行政区域で区切られておらず、市町村の平均値は相場観の材料にならない

香芝市・広陵町・上牧町の実家を売るか貸すか決めかねている方、遺産分割で複数の土地の価値を比べる必要が生じた方。まずは「自分の土地の最寄り基準地はどこで、その水準はいくらか」というご相談からで構いません。公表値の読み方を一つ変えるだけで、判断の質は大きく変わります。

奈良県の不動産の評価でお悩みの方は、奈良出身の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。香芝市の対応については香芝市の不動産鑑定、売却の判断に伴う評価は売買参考のための鑑定をご覧ください。ご相談はお問い合わせから承ります。

この記事を書いた人

吉田 健人代表取締役・不動産鑑定士

株式会社KRE Appraisal代表。相続・離婚・借地・賃料など、価格が争点になる場面の鑑定評価を扱う。不動産鑑定士(登録 第11191号)。

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