COLUMN

奈良県の空き家率は全国32位。統計が分ける「売れる空き家」と「売れない空き家」

公開 執筆 不動産鑑定士 吉田健人
夕暮れの奈良の旧市街の路地。手前に雨戸を閉め切り庭木が伸びた古い木造二階建てが一軒あり、その先には窓に灯りのともった住宅が並び、遠景に低い山並みが見える

「奈良は空き家だらけだと聞きました。うちの実家も、もう売れないのでしょうか」——県外にお住まいで奈良の実家を相続された方から、こうしたご相談をいただくことがあります。空き家問題が報じられるたびに、自分の持っている家も同じ山の一部なのだと感じてしまう。その不安はよくわかります。

ところが、統計を開くと事情は少し違います。奈良県の空き家率は14.6%。全国平均の13.8%を0.8ポイント上回るだけで、47都道府県を高い順に並べれば32番目、つまり下から数えたほうが早い位置にあります。奈良県は「空き家率がとりわけ高い県」ではありません。

それでも、県内で売るに売れない実家が積み上がっているのは事実です。原因は空き家の「数」ではなく「中身」にあります。本稿では公的統計をもとに奈良県の空き家の実像を確認し、売れる空き家と売れない空き家を分ける境界線を、私たち鑑定士が実務で使う判断軸に沿って整理します。

数字で確かめる:奈良県の空き家は本当に多いのか

空き家率14.6%、全国では高いほうから32番目

住宅・土地統計調査(総務省統計局が5年ごとに実施する、住宅と世帯の基礎統計)の最新結果である令和5年調査(2023年10月1日現在、確報集計は2024年9月25日公表)によると、奈良県の状況は次のとおりです。

  • 総住宅数:64万0千戸
  • 空き家数:9万4千戸
  • 空き家率:14.6%(全国は13.8%)

47都道府県で最も高いのは徳島県の21.3%、次いで和歌山県21.2%、山梨県20.5%。最も低いのは埼玉県9.3%、沖縄県9.4%、神奈川県9.8%です。奈良県の14.6%は高い順に32番目で、むしろ平均寄りの水準です。「奈良は空き家だらけ」という印象は、統計の上では裏づけられません。

ところが「放置された実家」の比率は全国平均を大きく上回る

見るべき数字は別にあります。同じ調査は、空き家を「賃貸用」「売却用」「二次的住宅(別荘など)」と、そのいずれでもないものに分けています。最後の区分——「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」が、いわゆる放置された実家にあたる部分です。

府県空き家率うち賃貸・売却用等を除く空き家率
和歌山県21.2%12.1%
奈良県14.6%7.7%
大阪府14.2%4.6%
兵庫県13.8%6.2%
京都府13.1%6.2%
滋賀県12.3%7.3%
全国13.8%5.9%

奈良県の7.7%は、全国平均5.9%を1.8ポイント上回ります。近畿では和歌山県に次いで2番目に高く、大阪府の4.6%とは1.7倍近い開きがあります。

大阪府に注目してください。空き家率は奈良県とほぼ同じ14.2%なのに、放置型は4.6%しかありません。大阪の空き家の多くは賃貸募集中の空室、つまり市場のなかで回転している在庫です。一方、奈良県は市場に出ないまま止まっている空き家の比重が高い。断言しますが、奈良で問題なのは総数ではなく、この止まっている部分です。

なぜ奈良では「止まった空き家」が積み上がるのか

持ち家・一戸建に偏った住宅ストック

奈良県の居住世帯のある住宅54万3千戸のうち、一戸建は36万6千戸で67.5%、持ち家は39万7千戸で73.2%を占めます。全国平均はそれぞれ52.7%、60.9%ですから、奈良県は全国と比べて明らかに「自分の家を持った戸建」に偏った県です。大阪のベッドタウンとして戸建住宅地が整備されてきた歴史が、そのまま数字に出ています。

この構造が空き家の性格を決めます。同じ住宅・土地統計調査の全国値では、共同住宅の空き家は78.5%が「賃貸用の空き家」であるのに対し、一戸建の空き家は80.9%が「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」です。賃貸アパートの空室は家主が募集をかけて埋めていきますが、持ち家の戸建が空いたとき、それを動かす主体は誰もいません。所有者が亡くなり、相続人が県外にいれば、そのまま止まります。

空き家の約6割は相続で手に入れたもの

国土交通省住宅局の令和6年空き家所有者実態調査(2025年8月公表。令和5年住宅・土地統計調査で空き家を所有すると回答した世帯から抽出した全国調査)は、この止まり方を裏づけています。

  • 空き家の取得方法:「相続」が57.9%で最多
  • 建築時期が1950年以前の空き家に限ると、相続で取得した割合は78.9%
  • 人が住まなくなった理由:「死亡」43.9%、「別の住宅に転居」39.0%
  • 今後5年程度の利用意向:「空き家として所有しておく」31.7%が最多、「売却する」は19.5%

所有者の意思で買った家ではなく、亡くなった親から引き継いだ古い家。そして3人に1人は当面そのまま持ち続けるつもりでいる。これが全国の空き家の平均像であり、持ち家戸建に偏った奈良県では、この像がより濃く出ていると考えられます。

売れる空き家と売れない空き家を分ける3つの軸

では、手元の実家はどちらなのか。私たちが評価の現場で最初に確認するのは、次の3点です。

軸1:接道——建て替えができる土地か

建築基準法第43条第1項は、建築物の敷地は道路に2メートル以上接しなければならないと定めています。ここでいう道路は原則として幅員4メートル以上のものです。これを満たさない土地では原則として建て替えができません。いわゆる再建築不可です。

奈良県では、ならまち周辺や今井町のような旧市街、旧街道沿いの集落、山裾の住宅地で、幅員4メートル未満の道にしか接していない敷地が珍しくありません。再建築不可となれば、買主は住宅ローンを組みにくく、建て替えて使う選択肢も失われます。価格への影響は他のどの要素より大きく出ます。

ただし、即座に価値がゼロというわけではありません。同条第2項第2号による特定行政庁の許可が得られる余地はありますし、隣地を買い増して接道を確保できる場合もあります。この可能性をどこまで織り込めるかが、評価の結論を左右します。

軸2:築年——1981年5月31日以前かどうか

先ほどの空き家所有者実態調査で、対象となった空き家の建築時期を見ると、1950年以前が15.1%、1951年から1970年が21.7%、1971年から1980年が26.4%。合計すると6割を超える空き家が1980年以前の建物です。

1981年6月1日以降に建築確認を受けた建物は、いわゆる新耐震基準に基づいて設計されています。それ以前の旧耐震の木造住宅は、買主側の住宅ローン審査や、中古住宅の流通支援制度の要件で不利になりやすく、実務上は「建物に値段がつかず、土地値から解体費を引いた価格になる」ことが多くなります。

興味深いことに、税制ではこの線引きが逆に働く場面があります。相続した空き家を売却したときの譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例(租税特別措置法第35条第3項、いわゆる空き家の3,000万円特別控除)は、昭和56年5月31日以前に建築された家屋であることを要件の一つとしています。売りにくい古い家だからこそ、税制上は特例の対象になり得るわけです(現行では2027年12月31日までの譲渡が対象)。制度の詳細と要件は空き家の3,000万円控除は使えるか|奈良の実家を売る前に確認する7つの要件で整理しています。なお、適用の可否は個別事情で変わりますので、必ず税理士にご確認ください。

軸3:立地——駅からの距離ではなく需要の層があるか

3つ目は立地です。ただし「駅から何分か」だけで判断すると読み違えます。奈良県内では、駅から徒歩5分の土地より、駅から1.5キロメートル離れた計画的な住宅団地のほうが単価が高い、という逆転が実際に起きています。この点は香芝市・広陵町の地価は本当に値崩れしにくいのか?同じ町内で4.7倍の差が生まれる理由で具体的な基準地の価格を挙げて検証しました。

見るべきは、そのエリアに「その家を買って住みたい人の層」が現に存在するかどうかです。大阪への通勤が成立する県西部・北部と、県南部・東部とでは、同じ築年・同じ広さの戸建でも買い手の厚みがまるで違います。

統計が示す「売れない理由」は、価格よりも物の状態

課題の第1位は「住宅の傷み」

先ほどの空き家所有者実態調査は、賃貸または売却する意向のある所有者に、その課題を尋ねています(複数回答)。

  • 住宅の傷み:43.3%
  • 借り手・買い手の少なさ:40.3%
  • 家財などの処理:37.4%
  • 設備や建具の古さ:34.0%
  • 再建築不可(道路付けの悪さなど):7.6%

再建築不可のような法的制約を挙げた人は1割に届きません。上位を占めるのは、傷み・家財・設備の古さという、手を入れれば動かせる要素です。多くの空き家は「売れない」のではなく「売れる状態になっていない」だけだ、ということになります。

持ち続ける理由の上位は、費用と使い道

一方、当面そのまま所有しておく意向の所有者に理由を尋ねると、次の順になります(複数回答)。

  • 物置として必要:55.8%
  • 解体費用をかけたくない:47.3%
  • 住宅の古さ:37.0%
  • さら地にしても使い道がない:34.8%
  • 取り壊すと固定資産税が高くなる:28.2%

解体費用と固定資産税が並ぶ点が重要です。住宅が建つ土地は固定資産税の住宅用地特例で課税標準が軽減されており、更地にすると税額が上がります。この仕組みは空き家を解体すると固定資産税が6倍?住宅用地特例の落とし穴で扱っています。

想定されるケース:解体費が結論をひっくり返す

具体的な数字で見てみます。考え方を示すための想定であり、実際の価格は個別に判定する必要があります。

土地150平方メートル、延べ100平方メートル(約30坪)の木造2階建て、築50年超。建物に市場価値は認められず、更地としての価格から解体費と家財処分費を引いた額が、実質的な手取りの目安になります。解体費は木造2階建て30坪でおおむね150万円から250万円程度が目安ですが、前面道路が狭く重機が入らない場合は上振れします。

想定更地価格解体費・家財処分費差引
土地単価8万円/平方メートル1,200万円230万円970万円
土地単価3万円/平方メートル450万円230万円220万円

土地単価が8万円であれば、解体費は手取りの2割弱にとどまり、売却は十分に成立します。ところが土地単価が3万円まで下がると、同じ230万円が手取りの半分を持っていきます。ここに前面道路が狭いという条件が加わって解体費が350万円に膨らめば、手取りは100万円まで落ち込みます。

奈良県内では、県西部・北部の住宅地と県南部・東部の集落とで、土地単価にこれだけの開きが生じます。「売れない空き家」の正体は、多くの場合、建物の状態そのものではなく、土地の価格水準に対して除却コストが重すぎることです。これは更地価格と除却費用の両方を具体的に押さえない限り判断できません。

まとめ

奈良県の空き家率14.6%は全国で高いほうから32番目であり、数の多さそのものが奈良特有の問題なのではありません。問題は、市場で回転しない「止まった空き家」の比率が全国平均を大きく上回っていることにあります。要点を振り返ります。

  • 奈良県の空き家率は14.6%で全国32位。全国平均13.8%とほぼ同水準
  • 一方、賃貸・売却用等を除く空き家の比率は7.7%で全国平均5.9%を大きく上回り、大阪府4.6%の1.7倍近い
  • 背景には一戸建67.5%・持ち家73.2%という住宅ストックの偏りがあり、全国でも空き家の約6割は相続で取得されたもの
  • 売れるかどうかを分けるのは、接道(建築基準法第43条第1項)・築年(1981年5月31日以前か)・需要の層という3つの軸
  • 所有者が挙げる課題の1位は「住宅の傷み」43.3%。法的制約より、手を入れれば動く要素が上位を占める
  • 土地単価が低いエリアほど解体費の比重が重くなり、売却の合理性が失われやすい

奈良の実家を相続され、売るべきか持ち続けるべきか決めかねている方。県外にお住まいで現地を見に行けないまま年数だけが過ぎている方。まず必要なのは、その土地が更地としていくらで、除却にいくらかかり、建て替えができるのかという3つの数字を押さえることです。この3つが揃えば、売却・賃貸・解体・保有のどれが現実的かは、かなりはっきりします。

私たち鑑定士は、価格等調査報告書(調査範囲を限定して価格の目安を示す書面)や鑑定評価書というかたちで、この土台となる価格を客観的な根拠とともにお示しできます。相続人が複数いて話が進まない場合も、第三者の評価があることで議論の出発点が定まります。なお、税務上の取扱いについては税理士に、遺産分割の法律問題については弁護士にご確認ください。奈良県の不動産の評価でお悩みの方は、奈良出身の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。

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この記事を書いた人

吉田 健人代表取締役・不動産鑑定士

株式会社KRE Appraisal代表。相続・離婚・借地・賃料など、価格が争点になる場面の鑑定評価を扱う。不動産鑑定士(登録 第11191号)。

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