COLUMN

再建築不可の家の価格はどこまで下がる?奈良の路地奥・町家と接道義務

公開 執筆 不動産鑑定士 吉田健人
古い木造町家の板壁と格子に挟まれた石畳の細い路地。奥に暖簾の掛かる小さな家の玄関、手前に鉢植えの植物が並ぶ

「ならまちの路地奥にある祖母の家を相続した。不動産会社に『再建築不可なので値段がつきにくい』と言われたが、本当にそんなに安いのか」——奈良の旧市街地にご実家をお持ちの方の中には、再建築不可の家の価格についてこうした疑問を抱えている方が少なくありません。ならまちの細い路地や、今井町の町割りの奥に建つ家では、建築基準法の接道義務を満たしていない敷地が珍しくありません。

先に結論をお伝えします。再建築不可の家の価格は、同じ地域で建て替えができる土地と比べて大きく下がるのが一般的です。ただし「再建築不可だから一律に何割引き」という決まりはありません。価格を左右するのは、①2項道路のセットバックや許可制度で建て替えの道が残っているか、②今の建物をどこまで使い続けられるか、③隣地の所有者など特定の買い手がいるか、の3点です。同じ「再建築不可」でも、この3点によって価格は数倍違ってきます。

この記事では、接道義務と2項道路の仕組みを整理したうえで、私たち鑑定士が再建築不可の土地・建物の価格をどう考えるのかを、具体的な試算とともにご説明します。

1. 再建築不可とは何か:接道義務と2項道路の基本

敷地は「道路」に2m以上接していなければならない

建築基準法第43条第1項は、建築物の敷地が道路に2m以上接していなければならないと定めています。これを接道義務といいます。ここでいう「道路」は、原則として幅員4m以上の建築基準法上の道路(同法第42条)です。

見た目は道でも、建築基準法上の道路に当たらない通路があります。この通路にしか面していない敷地や、道路に接している部分の幅(間口)が2m未満の敷地では、建築確認を受けられず、今の建物を取り壊すと新しく建てることができません。これが一般に「再建築不可」と呼ばれる状態です。

幅員4m未満でも道路になる「2項道路」

幅員4m未満の道でも、建築基準法が適用された時点(都市計画区域に編入された時点)ですでに建物が立ち並んでいた道で、特定行政庁(奈良市など建築確認の権限を持つ自治体)が指定したものは、道路とみなされます。同法第42条第2項に定めがあるため、2項道路と呼ばれます。

2項道路に面する敷地は、道路の中心線から2m後退した線が道路の境界とみなされます。この後退(セットバック)をすれば、建て替えができます。古い町並みの細い道の多くはこの2項道路であり、「道が狭い=再建築不可」とは限りません。

ならまちや今井町で再建築不可が生まれやすい理由

ならまちには、表の通りから奥へ入る細い路地が数多く残っています。こうした路地は、2項道路に指定されているものもあれば、建築基準法上の道路ではない通路のままのものもあります。後者の奥にある家は、接道義務を満たしません。

橿原市の今井町は、1993年12月に重要伝統的建造物群保存地区に選定された約17.4ヘクタールの町並みです(文化庁「重要伝統的建造物群保存地区一覧」)。江戸時代の町割りが残る地区では、短冊状の敷地や奥まった敷地が多く、接道の条件は一軒ごとに異なります。

再建築不可かどうかは、前面の道が建築基準法上の道路か、何項の道路か、間口が何mあるかで決まります。不動産会社の口頭の説明だけで判断せず、まず市町村の建築指導の窓口で道路の種別を確認することが出発点です。

2. 再建築不可でも建て替えの道が残る3つのケース

セットバックで解決する2項道路

前面の道が2項道路であれば、セットバックによって建て替えができます。代わりに、後退部分は道路として扱われ、建物も塀も建てられません。

たとえば幅員3mの2項道路に面する敷地なら、道路の中心線から2m、つまり今の境界から0.5m後退します。間口10mなら5平方メートル、敷地として使える面積が減ります。価格への影響は、この面積の減少分が中心で、再建築不可の場合とは減価の大きさがまったく違います。

建築審査会の同意による「43条2項2号許可」

建築基準法上の道路に接していなくても、敷地の周囲に広い空地があるなど一定の基準を満たし、特定行政庁が交通上・安全上・防火上・衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものは、例外的に建築できます(建築基準法第43条第2項第2号)。同項第1号には、幅員4m以上の道に2m以上接する延べ面積200平方メートル以内の一戸建て住宅などを対象とした認定制度もあります。

奈良市でも2号許可の審査は建築審査会で行われており、2025年5月の奈良市建築審査会では、許可の一括同意基準案が審議されています(奈良市「令和7年度第1回奈良市建築審査会会議録」)。同じ会議では、通路の所有者が所在不明で承諾が得られない事例も取り上げられており、路地の所有関係が許可の見込みを左右することが分かります。

伝統的建造物群保存地区の緩和

建築基準法第85条の3は、伝統的建造物群保存地区では、市町村が国土交通大臣の承認を得て条例を定めることで、接道義務などの規定を緩和できる仕組みを設けています。町並みを保存するために、現行の基準では建てられない形の建物を残すための制度です。

ただし、緩和の有無と範囲は地区ごとに異なり、すべての地区で接道義務が緩和されているわけではありません。今井町などの保存地区にある敷地は、市の担当窓口で個別に確認してください。

3. 再建築不可の価格はどう決まるのか:鑑定士の考え方

価格に効くのは「失われる使い方」

不動産鑑定評価基準は、土地の個別的要因として、接面街路の幅員や系統、公法上の規制などを挙げています。再建築不可の土地は、建物を建てるという最も基本的な使い方が将来にわたって制約されます。価格が大きく下がる理由はここにあります。

一方で、今の建物がしっかりしていれば、住む・貸す・店舗として使うといった使い方は当面続けられます。私たち鑑定士は、「更地にしたら何もできない土地」と「建物ごと使い続けられる土地」を分けて考えます。

想定されるケース:ならまちの路地奥100平方メートル

次の条件で、価格の考え方を比べます(数字はすべて説明のための仮定です)。

  • 敷地100平方メートル、近隣の建て替えができる標準的な住宅地の価格は1平方メートルあたり18万円
  • 標準的な土地なら、18万円×100平方メートル=1,800万円
ケース接道の状況価格の考え方試算額
A2項道路、セットバック5平方メートル有効面積の減少を中心に減価約1,700万円
B通路の所有者の承諾が得られ、2号許可の見込みが高い許可の不確実性と手続き負担を減価約1,250万円
C幅1.5mの通路のみ、許可の見込みなし現況建物の利用価値が中心約540万円

ケースCの試算は、建物を当面使い続けられることを前提に、標準的な土地の約3割としています。これは当事務所が説明のために置いた一例であり、実際の減価の幅は、建物の状態、通路の幅と所有関係、地域の需要によって個別に異なります。建物が老朽化して使えない場合は、さらに下がることもあります。

隣地の所有者には「限定価格」が成立しうる

再建築不可の土地でも、隣の土地と一体にすれば接道義務を満たし、普通の住宅地として使えることがあります。不動産鑑定評価基準は、隣接する土地を併合するための売買のように、市場が特定の当事者に限られる場合の価格を「限定価格」と定めています。

たとえば、ケースCの土地(単独で540万円)の隣に、道路に面した120平方メートルの土地(2,160万円)があるとします。二つを併合した220平方メートルの土地が1平方メートルあたり17万円で売れるなら、3,740万円です。併合による増分は3,740万円−2,160万円−540万円=1,040万円となり、隣地の所有者にとっては、単独の価格を上回る金額で買っても採算が合います。再建築不可の土地を売るとき、最初に隣地の所有者へ声をかけることが合理的な理由はここにあります。

4. 再建築不可の家を相続・売却するときの注意点

相続税の評価では「無道路地」として扱われる

相続税の土地評価では、接道義務を満たしていない宅地は無道路地として扱われ、通路を開設するのに必要な費用を差し引いて評価します(財産評価基本通達20-3)。ただし、差し引ける額は不整形地補正後の価額の40%が上限です。2項道路のセットバック部分は、その部分を70%減額して評価します(同通達24-6)。

市場での価格がこの上限を超えて下がっている場合、路線価による評価額が時価を上回ることがあります。その差を立証する手段の一つが、不動産鑑定評価です。路線価と時価の関係は、路線価と実勢価格はなぜ違う?相続で損しないための基礎知識で詳しく解説しています。相続税の申告方法の判断は、税理士にご確認ください。

リフォームの範囲は2025年4月から変わっている

2025年4月施行の建築基準法改正で、木造2階建ての住宅なども、大規模な修繕・模様替えをする際に建築確認が必要になりました。再建築不可の家は「建て替えはできないが、リフォームで長く使う」という選択肢が価格を支えてきましたが、骨組みに手を入れるような改修には確認の手続きがかかわるようになっています。

計画できる工事の範囲は、建物の状態と自治体の判断によって異なります。購入や大がかりな改修を検討するときは、建築士と自治体の窓口に事前に相談することをおすすめします。

売却では「誰が買うのか」を先に考える

再建築不可の家の買い手は、主に隣地の所有者、現況のまま住む・貸す・店舗にする人、再生を前提とする買取業者に分かれます。買取業者の提示額は、再販の費用とリスクを差し引いた価格になるため、低くなりやすい傾向があります。

売り急ぐ前に、隣地の所有者への打診や、町家としての活用価値を評価する買い手の有無を確認してください。町家の価値の見方は、今井町・ならまちの町家、その価値と評価・活用のポイントでも整理しています。

まとめ

再建築不可の家の価格は大きく下がるのが一般的ですが、その下がり方は一律ではなく、建て替えの道、建物の使用価値、買い手の範囲によって大きく変わります。

要点を振り返ります。

  • 再建築不可は、建築基準法上の道路に2m以上接していない敷地で生じる
  • 幅員4m未満の道でも2項道路ならセットバックで建て替えができ、減価は小さい
  • 43条2項の認定・許可や、伝統的建造物群保存地区の緩和条例で建築できる場合がある
  • 試算では、許可の見込みがない敷地は標準的な土地の約3割という例もあり、個別差が大きい
  • 隣地の所有者には限定価格が成立し、単独の価格を上回る取引が合理的になりうる
  • 相続税評価の無道路地の減額は40%が上限で、時価との差が生じることがある

ならまちや今井町など旧市街地の路地奥に家や土地をお持ちの方、相続した実家が再建築不可と言われて売却や分割の判断に迷っている方は、価格の根拠を確認してから動くことをおすすめします。

奈良県の再建築不可物件の評価でお悩みの方は、奈良出身の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。費用の目安は、土地・戸建住宅の鑑定評価書が30万円〜、金額の目安を知るための価格等調査報告書が15万円〜、相手方資料の検証(セカンドオピニオン)が5万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。

あわせて読みたい:「建てられない土地は半値なのか──再建築不可の実家を相続したときの評価の考え方」

あわせて読みたい:「再建築不可物件はいくらで売れるのか?更地価格の2割から7割まで変動する理由を鑑定士が解説」

この記事を書いた人

吉田 健人代表取締役・不動産鑑定士

株式会社KRE Appraisal代表。相続・離婚・借地・賃料など、価格が争点になる場面の鑑定評価を扱う。不動産鑑定士(登録 第11191号)。

プロフィール →
お問い合わせLINE電話する
↑