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借地権割合60%なのに半値でしか売れない?相続税評価額と売却価格がズレる理由

公開 執筆 不動産鑑定士 吉田健人
昼下がりの住宅地の細い道。左手前に瓦屋根の木造家屋と生垣、右手に白い外壁の新しい二階建て住宅が向かい合い、道は奥へ緩やかに伸びる

「相続税の申告書には、借地権の評価額が720万円と書いてありました。ところが不動産会社に相談したら、実際に売れるのは400万円くらいだと言われたんです」——奈良市内の借地の上に建つご実家を相続された方から、当事務所がこうしたご相談をいただくことがあります。

逆のパターンもあります。申告のときは低い金額だったのに、いざ地主との交渉になったら、相手が提示してきた金額のほうがずっと高かった。いずれにせよ「どちらの数字が本当なのか」がわからず、話が前に進まなくなります。

結論から申し上げます。相続税評価額と実際の売却価格がズレるのは、異常なことでも計算間違いでもありません。両者はそもそも別の目的で、別の考え方に沿って求められた数字だからです。この記事では、なぜ構造的にズレるのか、そしてズレが大きいと分かったときに何をすればよいのかを、私たち鑑定士の実務の視点で整理します。

相続税の借地権評価は「更地価格×借地権割合」で機械的に決まる

まず、申告書に載っている数字がどう作られているかを確認します。

借地権割合は地域ごとに一律で決められている

相続税・贈与税の計算では、借地権(他人の土地を借りて建物を所有する権利)の価額は、財産評価基本通達27に従って評価します。計算式はきわめて単純で、その土地の自用地としての価額、つまり借地権が付いていないものとした場合の価額に、借地権割合を掛けるだけです。

借地権割合は、国税庁が公表する路線価図・評価倍率表に、A(90パーセント)からG(30パーセント)までの記号で示されています。重要なのは、この割合が「借地権割合がおおむね同一と認められる地域ごと」に定められている、という点です。個々の借地契約の中身を見て決めた数字ではありません。奈良県内では、奈良市中心部の商業地で70パーセント前後、郊外の住宅地で50から60パーセント程度が多く見られますが、その地域の中にある借地は、契約内容にかかわらず全部が同じ割合で評価されます。

つまり相続税の評価額は、地域の標準値を機械的に当てはめた数字です。大量の申告を公平かつ短期間に処理するには合理的な仕組みですが、その土地固有の事情を映す設計にはなっていません。

奈良県は倍率地域が広く、割合が空欄の地域もある

もう一つ、奈良県で見落とされやすい点があります。県内は路線価が設定されていない倍率地域が広く、その場合、借地権割合は評価倍率表のほうに記載されます。そして評価倍率表の借地権割合欄が空欄になっている地域では、借地権の価額を評価しない扱いになります。財産評価基本通達27のただし書きが、権利金の授受など借地権の取引慣行があると認められる地域以外の借地権は評価しないと定めているためです。

ご自分の土地がこの扱いに当たると、申告上の借地権の評価額はゼロです。しかしゼロと評価されることと、その借地権に交換価値がまったくないことは、同じではありません。地主が底地を整理したいと考えていれば、実際には相応の金額で取引が成立することもあります。ここも乖離が生まれる典型的な場面です。

実際の売却価格を決めているのは「割合」ではなく「地代の差額」

では、市場で借地権の値段を決めているのは何か。核心は地代です。

借地権の経済的価値の源は「借り得」の部分

借地権を買う人は、その土地を使う権利と一緒に、地代を払い続ける義務も引き受けます。ですから、その土地本来の経済価値に見合った適正な地代と、実際に契約で定められている支払地代との差、いわゆる借り得の部分が、借地権の経済的価値の中心になります。

昭和の時代から地代がほとんど据え置かれてきた借地であれば、借り得は大きく、借地権の価値は高くなります。反対に、近年に契約が結ばれ、地代が近隣相場どおりかそれ以上に設定されている借地であれば、借り得は小さく、価値も薄くなります。極端な例として、法人が絡む取引では、更地価格の年6パーセント程度という「相当の地代」を支払っている場合、借地権の価額をゼロとして扱う取扱いが定着しています。地代の水準が借地権の値段を決めるという構造が、税務の側にも現れているわけです。

鑑定評価は4つの手法を関連づけて判断する

不動産鑑定評価基準(国土交通省)は、借地権の価格を求めるにあたり、借地権の取引事例に基づく比準価格、土地残余法による収益価格、賃料差額還元法による価格、そして借地権取引が慣行として成熟している地域における借地権割合により求めた価格を、関連づけて決定するものとしています。

注目していただきたいのは、借地権割合による価格が「4つのうちの1つ」でしかないこと、しかも取引慣行が成熟している地域という条件付きであることです。私たち鑑定士は、この4つを並べたうえで、対象となる借地の地代水準・契約残存期間・建物の状態・当事者の関係を踏まえて結論を出します。申告書の数字が単一の計算式の産物であるのに対し、市場価格は複数の角度からの検証を経た数字になります。

同じ借地権割合60パーセントでも、価格は倍近く動く

想定されるケースで確認します。奈良市郊外の住宅地、土地150平方メートル、借地権割合60パーセントの地域にある借地とします。路線価をもとにした自用地としての価額が1,200万円、したがって借地権の相続税評価額は720万円。ここまでは2つのケースで共通です。

項目ケースA(地代が高い)ケースB(地代が据置き)
年間の支払地代36万円9万円
更地の実勢価格1,500万円1,500万円
借地権の相続税評価額720万円720万円
市場で成立しうる価格400万円から500万円750万円から900万円

ケースAは、平成期に入ってから契約が結ばれ、地代が近隣の相場並みに設定されている借地です。借り得がほとんどありませんから、買い手から見れば「毎年36万円を払い続けるくらいなら、所有権の物件を探す」という判断になりやすく、価格は評価額を大きく下回ります。

ケースBは、戦後から続く借地で、地代の改定がほとんど行われてこなかったものです。借り得が大きく、価格は評価額を上回ります。同じ地域、同じ借地権割合でありながら、成立する金額には倍近い開きが出る。これが「割合では測れない」ということの実際です。

ズレを広げるもう一つの要因——借地権は単独では売りにくい

地代の差額に加えて、流通面の制約も価格を押し下げます。

地主の承諾と譲渡承諾料

借地権を第三者に譲渡するには、原則として地主の承諾が必要です。承諾が得られない場合は、借地借家法第19条に基づいて裁判所に許可を求める借地非訟という手続きがありますが、時間も費用もかかります。承諾を得る場合も、慣習として借地権価格の10パーセント程度の譲渡承諾料が発生し、その分だけ手取りが減ります。売却の実務全般は借地権の売却相場はいくら?価格の決まり方と3つの売却先の違いで詳しく整理しています。

買い手側の資金調達が難しい

借地権付建物は、金融機関が担保として評価しづらく、住宅ローンの審査が通りにくい傾向があります。買い手の層が現金購入者や借地に慣れた事業者に限られるため、需要が薄くなり、価格は所有権物件に比べて割り引かれます。相続税の評価額は、この流通性の差を反映しません。

契約の残存期間と建物の残り

旧借地法時代からの借地であれば期間の心配は小さいものの、建物が古く、建替えに地主の承諾(と建替承諾料)が必要となれば、買い手は建替費用と承諾料を織り込んで値段を付けます。築年数の古い木造家屋が建つ借地では、この控除が想像以上に効いてきます。

奈良で特に乖離が出やすい3つの場面

旧市街の低額地代の借地

ならまち周辺や大和郡山市の旧城下町など、古くからの市街地には、長く地代が据え置かれた借地が残っています。借り得が大きく、実勢価格が評価額を上回る典型です。地主から「底地を買い取りたい」と打診されたときに、申告書の数字だけを根拠に応じると、本来の価値より安く手放してしまうおそれがあります。

寺社地の借地

奈良は寺社が地主となっている借地が少なくありません。この類型は、譲渡や建替えの承諾の運用、地代の改定の考え方が一般の借地と異なることがあり、通常の借地権割合の感覚がそのまま当てはまりません。詳しくは奈良の借地権・寺社地借地の評価で、気をつけるべき3つのことをご覧ください。

郊外・倍率地域の借地

前述のとおり、借地権割合が定められていない地域では申告上の評価額はゼロになります。一方で、その土地の利用価値がゼロということはありません。地主との交渉に入る前に、実勢がどの程度かを押さえておく必要があります。なお路線価そのものと実勢価格の関係については路線価と実勢価格はなぜ違う?相続で損しないための基礎知識で解説しています。

乖離が大きいと分かったときに、何をすべきか

相続税の申告では、時価によることが認められる場合がある

相続税法第22条は、相続財産の価額を「時価」によると定めています。財産評価基本通達は、その時価を算定するための実務上の取扱いを示したものです。したがって、通達による評価額が時価として著しく不適当と認められる特別の事情があるときには、鑑定評価による時価で申告するという選択肢が実務上とられてきました。ただし、これが認められるかどうかは個別の事情に左右され、税務署との見解の相違が生じる領域でもあります。通達評価と時価の関係、いわゆる総則6項をめぐる一般的な考え方は相続税は鑑定評価(時価)で下げられる?総則6項の実務と注意点で整理していますので、あわせてご覧ください。申告方針の最終判断は税務に関わりますので、必ず税理士にご確認ください。

遺産分割では、そもそも別の数字を使う

見落とされがちですが、相続人の間で財産を分ける遺産分割では、相続税の評価額を使う必然性はありません。分割の場面で基準になるのは分割時の時価であり、相続税の課税価格とは目的も基準時も異なります。借地権を長男が取得し、他の相続人に代償金を払うといった場面で、720万円を前提にするのか、900万円を前提にするのかで、代償金は大きく変わります。ここを曖昧にしたまま合意すると、後から不公平感が残ります。

動く前に、価格の当たりをつけておく

地主との交渉に入る前、あるいは遺産分割の協議に入る前に、その借地権が実際いくらなのかを客観的な根拠とともに押さえておくことをおすすめします。裁判所や税務署への提出が想定される場面では鑑定評価書(不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に沿って適正な価格を判定した文書)を、当事者間での検討や交渉材料として金額の見当をつけたい段階であれば価格等調査報告書(基準の一部を省略し、調査範囲を限定して価格を示す簡易な報告書)を、というように用途に応じた使い分けができます。両者の違いはいわゆる「簡易鑑定」で足りますか?鑑定評価書と価格等調査報告書の使い分けをご覧ください。

まとめ

相続税評価額と実際の売却価格がズレるのは、片方が間違っているからではありません。地域の標準値を機械的に当てはめた数字と、その借地固有の地代や契約条件を織り込んだ数字とが、一致しないのは当然です。問題は、ズレていること自体ではなく、どちらの数字を使うべき場面なのかを取り違えることにあります。要点を振り返ります。

  • 相続税の借地権評価は、自用地としての価額に地域ごとの借地権割合を掛けるだけの計算(財産評価基本通達27)。個々の契約内容は反映されない
  • 市場価格を決めているのは、適正な地代と実際の支払地代との差、つまり借り得の大きさである
  • 同じ借地権割合60パーセントの地域でも、地代の水準次第で成立価格は倍近く開く
  • 地主の承諾と譲渡承諾料、住宅ローンの組みにくさ、建替承諾料の負担が、価格をさらに押し下げる
  • 奈良では、旧市街の低額地代の借地、寺社地の借地、借地権割合が定められていない倍率地域で、特に乖離が出やすい
  • 遺産分割で使う価格は分割時の時価であり、相続税の評価額をそのまま持ち込む必要はない

奈良県内の借地を相続された方、地主から底地の買取や借地権の譲渡を打診されている方、そして相続人の間で代償金の額を決めかねている方。申告書の数字だけで判断を進める前に、その借地権が市場でどう評価されるのかを一度確認してください。数字の根拠が一つ増えるだけで、交渉の進め方も、話し合いの納得感も変わります。

奈良県の不動産の評価でお悩みの方は、奈良出身の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。借地の権利関係については借地権・底地の評価、相続に伴う評価全般は相続のための鑑定をご覧ください。ご相談はお問い合わせから承ります。

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この記事を書いた人

吉田 健人代表取締役・不動産鑑定士

株式会社KRE Appraisal代表。相続・離婚・借地・賃料など、価格が争点になる場面の鑑定評価を扱う。不動産鑑定士(登録 第11191号)。

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